第12章 牡蠣殻はやっと眠たい
「私は磯では足手まといの不失の身。砂の阿修理に乞われた結婚を父が承諾したとき、私は捨てられたのだと思いました。里の将来のために見聞を広めようと訪れた砂に、何故嫁がねばならないのです?磯影に不失の娘は要らぬ、つまりはそういう事なのでしょう?その娘が磯を強くする。フ。死んで半年もせぬうちに後妻に入られた母の名を名乗って関わってはならない草の妃になって、小気味いいとは思わない?父もさぞ驚くでしょうよ」
苦く笑う杏可也に、鬼鮫は明らさまに迷惑そうな表情を浮かべた。
「何ですかあなたは、弟離れのみならず父離れも出来ていないんですか?全く、そんな事を私に言われても知りませんよ。何の関係もありませんからねえ。ついでにいえば興味もない。どうだっていいですよ、そこらへんの事は」
窓の横に寄り掛かり、腕組みをして薄笑いする。
「ひとつ言っておきますがね。あなたは私にしてみれば飽くまであの人に纏わる厄介な煩累でしかない。あなた自身に関わる気などさらさらありません。あなたは確かに興味深い人じゃある。しかしそれだけです。私に何か期待しても無駄ですよ。私は深水さんや荒浜とは違う。勘違いしないで欲しいですねえ」
「嘘」
「は?」
「私を抱きたいのでしょう?」
「そりゃ満更じゃないですよ。あなたは嬲りがいがありそうだ。私の嗜好を満たしてはくれるでしょうねえ。何なら抱きましょうか?面倒になってきました。それで話がすむのならいいですよ?」
「あの子が身近にいるこの場で?・・・・いくら何でもあんまりね。あなたも大概趣味の悪い」
「ふん?尻込みするとは意外ですね」
「私にも色々思惑がありますからね。磯辺に不信感を持たせるような真似をするつもりはないの。特に今は」
「私を誘うこと自体充分不用意と思いますがね」
「そうかもしれませんね。思った以上に扱いにくい事」
「フ・・・。あなたを殺して草を出る事くらい、私には造作もないのですよ?口のきき方には気を付けた方がいい」