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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 牡蠣殻はやっと眠たい


鬼鮫はまた窓の表へ目をやって淡々と言った。

「あの人は私が連れて行きます」

「駄目です。殺したつもりで忘れなさい」

杏可也は赤く紅をひいた口を上げて微笑した。

「巧者同士の子は盤石の血筋で強い力を持つでしょう。それまでに磯は強く大きな里になっていなければならない。私と海士仁がそれをする。替わりに波平には磯辺をあげる。二人で力のある子を産んで貰うわ。海士仁がいればもしかして引き継がれるかも知れない忌血さえ力になるのよ?その為に先ずは草を呑む。手短に磯を伸ばすには本草の基盤がある草を共食いするのが良手。私の邪魔をしないで。磯辺と、深水の書き遺したものを置いて草を出なさい」

「成る程。それで私の前に現れた訳だ。深水さんが残したあの資料、あれがあなたの狙いでしたか」

鬼鮫は窓の表を眺めたまま呟いた。

「随分前から画策していたのでしょうねえ。そうなるとあの人には聞かせたくない話が山のように出てきそうだ。あの人が頭の上がらない深水さんと夫婦になった訳や、師以上に忌血に熱心な荒浜と通じた真意、芙蓉なる女に引き合わせたのは万一里外にあの人が渡るのを防ぐために草へ隠す心積もりからですかね。磯では守りきれぬが草ならばと思いましたか。長老連とやらが草に通じたのもあなたの手引きでしょう。彼らもあなたと半ば同じ目的を掲げていますからね。即ち、強く、大きな磯・・・」

「私にはそれが出来ます。何しろ私は・・・」

一時息を詰めてから、杏可也は挑みかかるような顔をした。

「為蛍長の寵妃、第一夫人螺鈿」

鬼鮫は口角を上げた。

「大したものだ。草の知己とはやはりあなたの事でしたか」

「何処で何を聞き齧ったか知りませんが、私が草で何者であるかを知る者は少ない。磯辺も、長老連ですら、私が螺鈿である事は知りません。勘づいた者がいるとすれば余程の調べ上手ね」

杏可也が首を傾げて言う。しとやかでおっとりした仕種。デイダラなら見とれるだろう。

「磯も定住し本草の技を生かして益を上げれば豊かな生活が出来る筈。豊かになり人が増えれば里を守る余裕もうまれ、逃げ隠れせずともよくなる。人に利用されることを恐れて逃げ回るくらいなら強くなればいいのです。誰にも負けぬように。折角の能力を鼠の群れのように移動し続けることに使うなど話になりません。愚かな」

杏可也は眉をひそめて続けた。
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