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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第12章 牡蠣殻はやっと眠たい


「訳ありかいな。構わん構わん。わちはそういう事は気にせんのよ。ずっとそうして来たからの。見ぬのも聞かぬのも得意ぞえ?」

「話さぬ事だけは出来ん。そうした爺だ。悪い奴ではない。が、余計な事は互いの為に言わぬ事」

言って、海士仁がそっと一平を牡蠣殻の腕に託した。

小さいのに不思議に濡れ濡れと重い温かな塊が、ずしりと身を預けて来た。

「・・・ほお・・・・おぉ・・・・」

我ながら妙な声が漏れた。
一揃いの小さな目がじっと牡蠣殻を見詰める。
師に似た箇所を探すのは難しい。赤子を見慣れぬせいか、我が鈍いせいか。一生懸命見返しているうち、瞼が溶けて来た。

眠い。

赤子の湿った熱が、体の毒を吸出していくような心持ち。

「ありゃ、いかん。これ」

伊草の慌てた声にハッとしたときには、落ちかけた一平が間一髪で海士仁の腕に引き取られていた。

目をシバシバさせながら磯辺はこめかみをぐりぐりと指圧した。

「・・・・また来てもいいですか?」

「構わぬ。が、眠ければここで寝て行け。わざわざ戻らずとも・・・」

言いかけた海士仁を掌を立てて押し止め、牡蠣殻は大欠伸した。

「ありがとう。でもよく眠れそうだから放っといて。好きにしたい」

「・・・眠りの前髪?」

「そう」

「気難しいのか」

「逃がしてるうちにこじらせた。好きに寝かせて下さい」

「間抜け」

「うるさい」

「間もなく杏可也が来るぞ」

「後程」

「大丈夫かえ、なあ?」

口を挟んだ伊草に目の下が黒い顔を向けて、牡蠣殻はまたヘラッと笑った。

「大丈夫です。後程」

言いながらガツンゴツンあちこちにぶつかりながら室を出て行く。

「・・・何処へ行くんかいな?」

伊草の問いに海士仁が笑った。

「表。アレは山野に親しむ一族の出、野宿が落ち着く育ちだ」

「ほぉん・・・面白いの」

伊草は目を瞬かせて頷くと、海士仁から一平を受け取った。

「杏可也が来るとな?」

「磯辺の事を伝えたからな。来る」

「なら丁度いい。わち、頼まれ事があったんだえ」

「何だ?」

「磯の女子に会いたいとな、丈高い偉丈夫に頼まれたえ。なかなかの男よ?わちは好きだなえ、もし」

「丈高い偉丈夫?・・・・ハッ」

海士仁は少し考え込んでから、堪らず笑った。

「磯の女子に会いたいと?」



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