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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第11章 好機逸すべからず


「や、笑いすぎだし。てか俺に振らないで。何かヤだ」

カンクロウは溜め息をついて波平と藻裾を見比べた。

「で?アンタらこそどうしたい訳?牡蠣殻ァ言ったらもう磯のモンじゃねえんだろ?砂に来たときにゃもうそうだったしな。話によると散開の前にも音と取引すんのに投げられてるみてェだし、今更磯に戻れもねェよな?何かしてやれんの、牡蠣殻さんに?」

「何をしてやれるかは取り戻してから考える。牡蠣殻には私の側にいて貰わねば困るのです。それ以外の事は考えられない。私は生涯あれと並び行くつもりで生きてきましたからね。砂で隠居のお二人に語ったよりもう一段正直になれば、得手勝手な様だがそれこそ牡蠣殻は私のものだ」

「そら難しいスよ、波平様。牡蠣殻さんは鮫のアニさんが好きなんだもん。気持ちの事ァ何ともなんないでしょうよ」

藻裾の言葉に波平はフッと笑った。

「そうだとしても」

眼鏡を外して目をすがめ、またかけ直して顎を引く。

「牡蠣殻の気持ちの幾分かは必ず私のところにある。例えそれが情でしかないとしても、私の顔を見て私を拒絶する事はアレには出来ないでしょう。私には手繰る糸口がある。わかりますか、藻裾」

「わかりますかったって、正直わかんねえスよ。何だ?情につけ込もうっての?そんな事したって何にもなんねえ。牡蠣殻さんはアニさんが好きなんだ」

「だったらなんです?牡蠣殻は私がアレを好いている事を知らない。知ろうとしなかった。知れば悩むでしょう。私はあの男から牡蠣殻を取り上げるのに躊躇する気はありませんよ。つけ込んででも牡蠣殻を取り戻す」

「そんなに好きなら何で音と取引すんのに使ったりしたんじゃん?」

カンクロウの問いに波平は失笑した。

「牡蠣殻は巧者ですよ?逃げようとして逃げられない事などあり得ない」

「砂じゃボロボロになってたぞ。消えて逃げりゃ良かったのに、わざわざ木の葉の根に追っかけ回されてよ?なあ、ありゃ木の葉に残った磯の仲間を気遣ってたんじゃん?あの人だって色々考えてんだろ?音と取引すんのにも簡単に逃げ出しゃしなかったかもしんねえじゃん。何かのためなら頑張ろうって踏ん張っちまったかも知んねえよ。そしたらどうなってたんだ?木の葉の介入がなくて音と接触してたら今頃どうなってたと思う?逃げ回る事を期待してあの薄べったい女をペラペラにしちまったのはアンタじゃねえのか?」
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