第11章 好機逸すべからず
「そうだとしたら何だと言うんです?あれはけして腕が立つわけではない。だが失せる事に関しては生半ではない。それを生かして何が悪いのです」
「頑張らせてやりゃいいじゃん?逃げてばっかいたら自分がヤになっちまうだろ?」
「あの質で全うに立ち向かえば命が幾つあっても足りない。失せるよう言うのが筋でしょう。敵う筈もないものに立ち向かう必要はアレにはない。巧者なのだから」
「巧者巧者って何なんじゃん!?逃げねえ巧者がいたっていいじゃん。ソイツがそう思うんならよ!」
ボロボロで笑った牡蠣殻が頭を掠めた。我愛羅の寂しげな幼顔が、頬を打つように痛く思い出された。
「ソイツが何かなんて、周りが決める事じゃねんだよ!質や能力が何だって、自分の事ァ自分で考えりゃいんだ!周りでごちゃごちゃ言うモンじゃねえ!ただでさえメンドくせェ思いしてるヤツの邪魔すんじゃねえよ!」
カンクロウは眉を跳ね上げて波平を睨み付けた。
「俺を草にやるってなら、俺は牡蠣殻を砂に連れて帰る!アイツがちっとは自分を好きになれるまで砂にいりゃいい!逃げなくてもいんだってわかるまでいりゃいい!我愛羅ならアイツにそれを教えてやれる。磯の、アンタのとこにゃ、牡蠣殻はいねえ方がいい!」
言い切ってカンクロウは大きく息を吸い、鼻息も荒く波平と藻裾を見た。
「丁度いいじゃん。無駄な足止めが手土産つきになるわ。我愛羅も牡蠣殻ン事ァ気にしてたからな。俺の座右の銘が活きるってもんじゃん?俺ァ草に行く。行って牡蠣殻を連れて行くわ」