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連れ立って歩く 其の三 鮫と虚貝編 ー干柿鬼鮫ー

第11章 好機逸すべからず


「は?」

藻裾が目を瞬かせて首を突き出した。

「あれ?」

当のカンクロウも目をシパシパさせて首を傾げる。

ただ波平だけが、何処か痛いような顔をして溜め息を吐いた。

「それなら君がそれを言ってやればいい。牡蠣殻は草にいますよ。行って荷を下ろして来たらどうです?」

「はいぃィィ!?待て待て待て!アンタの好きな女なんだろ?何で人に投げんだよ?」

「投げる?」

波平の目がスゥと細くなった。

「二度と再び投げる事などしませんよ。既に二度手放したものを取り戻そうと言うのです。私にしてもそれなりの心積もりがある」

「だろうな。でなきゃこっちも納得いかねえ。牡蠣殻さんが草にいるってのはホントか?何で黙ってた?」

藻裾が剣呑な顔で前に出た。

「今朝がた報せが来たのでね。黙っている気はなかった。少し気持ちを整理したかったのですよ」

波平は目顔で藻裾をなだめ、指の節を口にあてて、ヒュッと高い摩擦音を立てた。

羽音と共に白い鳩が天幕に飛び込んできた。

「雪渡り!」

大きな目を見開いて藻裾が両手を広げる。白い鳩は挨拶するように彼女の肩周りを旋回して、差し伸ばされた波平の腕に止まった。

「散開の際牡蠣殻に譲ったものが何の因果か暁に居着いてしまったらしいのです」

年若い鳩の柔らかな和毛をくすぐりながら波平が微笑する。

「よい働きをするようになった。デグが喜ぶ」

「角都さんから報せが?」

また険しい顔立ちに戻った藻裾が、斟酌ない声音で尋ねた。波平は小さく頷くと、卓に置かれた先程の報告書に目を走らせた。

「散開の騒ぎのとき、お前と親しく連んだ青年が今草に行っている。彼が間違いなく牡蠣殻を見止めたそうです」

「ハ?誰だって?」

キョトンとした藻裾にカンクロウが渋い顔をする。

「髷の事じゃねえのか?何かオメエ、ホントひでェな。忘れちゃったか?あの髷を」

「デイダラか?何だ、青年なんてえから誰かと思ったわ。青年なんてシュッとしたモンか、アレ?」

「青年てより筆じゃん?」

「なあ?言っても火遊び好きのガキだよな?」

「粘土遊びも好きじゃん」

「口悪ィチビだしな」

「・・・二人はその彼と親しいんじゃないのかな?」

「親しい!?ダハハハハッ、何言っちゃってんスか、ハハハハッ、親しいって!親しいってよ、ジャンジャン!」

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