第11章 好機逸すべからず
「何の話は俺の台詞じゃん!?ちゃんと説明しろよ、おい!」
「こっちが説明して貰いたいわ!草で一番偉い女が二番目に偉い女に牡蠣殻さんを紹介したんだってよ!あの人の顔もまともに覚えらんねえ牡蠣殻さんに誰か引き合わせるような相手は余程の知己だろ?何で牡蠣殻さんが草の偉い女と知り合いなんだ?フラフラ出歩いて何してたんだ、あの人?おい、説明しろ!」
「・・・落ち着けよ、無茶ぶりが凄い勢いで横滑りしてんぞ?」
「・・・相手が何処の誰か知らずに親しくなる事もあるでしょうが、周囲に無関心でコミュニケーション障害の気を抱えた牡蠣殻ではそれも考えづらい・・・いや、しかしアレはぼんやり者でもあるから有り得なくもない・・・」
「そんな言うなよ、アンタ好きなんだろ、その付き合い辛そうな女が」
「ええ、そうですよ。君には礼を言わなければね。砂で牡蠣殻を彼岸から呼び戻してくれたでしょう」
「ありゃ俺じゃねえよ」
乾いた傷だらけの薄い手の感触が掌に甦って、カンクロウはしかめ面で己が手を見下ろした。
「人違いだ。俺じゃねえ」
波平と藻裾が顔を見合わせる。
カンクロウは手を結んだり開いたりして、しかめ面のまま黙り込んだ。
「ご隠居の話では君だったけれど、違うのかな?」
「手を握ったのは俺だけど、アイツが手を握って貰った相手は俺じゃねえよ」
肩をすくめて顔を上げたカンクロウに、藻裾がちょっと考え込んでから笑って見せた。
「・・・へえ。満更鈍かねえな。ふうん?オメエ案外モテんじゃねえか?ジャンジャンのくせに生意気な」
「あのなあ、頼むから早いとこジャンジャン言い飽きてくんねえか?染み付きそうで不愉快じゃん」
「ー成る程。不愉快だな。・・・いや、君の事じゃない。失礼。私は我が物顔で陸を歩く魚類に腹を立てているんですよ。単刀直入に言って、肺呼吸など間違ってもしそうにない顔で二足歩行されると三枚に下ろしたくなると、そういう話ですよ」
「・・・あれを三枚に下ろすのは厳しいんじゃん?」
「下ろすってより解体だよな、あのアニさんのガタイじゃ」
「どっちだっていいですよ、息の根さえ止まれば」
「・・・・あのよ、あの鮫のオッサンは牡蠣殻の男なワケ?」
薄笑いで物騒な事を呟く波平を横目にカンクロウが藻裾に尋ねた。
「さあ。気になんなら牡蠣殻さんかアニさんに聞けよ」