第6章 書類配りIV
振り翳した拳は顔に当たる寸前でピタリと停止した。流歌が声の主を見ると、怒った表情を浮かべた金髪の女性が立っている。
「(もしかして彼女は…)」
「ま、松本副隊長…!?」
十番隊副隊長
松本乱菊───。
「(“灰猫”の所持者…。)」
男はハッとして拳を引っ込め、慌てて流歌から距離を取った。
「神崎!」
心配した乱菊が流歌に駆け寄る。
「大丈夫?何もされてない?」
「え、あ…大丈夫、です…」
その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。そして乱菊は鋭い眼光で隊士達を睨み付ける。
「あんた達…随分と卑怯な真似するわね」
「卑怯?何言ってるんですか副隊長。つーか…何でそいつを庇うんです?守ってやる価値なんてないじゃないですか」
「そうっスよ。守るだけ無駄。そいつを庇ったって意味ないんですから」
「それを決めるのはあんた達じゃないわ」
「桃香ちゃんを殺そうとした奴をどうして庇うんですか!!」
「あんた達がひと束になってこの子を虐めるからでしょ。まさかとは思うけど…隠れてこの子に乱暴でもしてるんじゃないでしょうね?」
乱菊の言葉に図星を突かれ、隊士達はギクリと体を跳ねさせる。
「な…何言ってるんですか!」
「そんなことしてませんよ!」
「今のは…その…新人の態度が悪かったから注意してただけっスよ!」
「どうかしらね」
全く信じていない乱菊に隊士達はグッと黙り込んだ。
「行きましょう、神崎」
乱菊は流歌を連れ、執務室に入って行った。
「ハァ…マジで危なかったな」
「松本副隊長…何であんな奴庇うんだよ」
「副隊長が気付かなければ面白かったのに」
「きっとあの野郎が何か吹き込んで副隊長を誑かしてるに違いないぜ」
「今度はバレねーようにしないとな」
隊士達がニヤリと笑う。
「(何で思い通りにならないのよ!!あのまま殴られてたらアタシに謝罪してたかも知れないのに!!余計な真似してくれたわね…!!それにしても…殴られても蹴られても平然としてるなんて腹立つ…!!)」
桃香は悔しさと苛立ちでギリッと歯を噛み締めた。
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