第57章 Epilogue-それは世界で一番の-
「梨央ちゃん。
ボクね、キミに話があって来たんだ」
「私に?」
京楽は頷いて、店の入口を指した。
「ちょっと出ようか。……日番谷隊長!
ほんの少し花嫁さんを借りていくよ」
「ああ」
なんの話だろうと不思議そうに首を傾げる梨央を連れて、京楽は居酒屋を出た。
◇◆◇
居酒屋の前には大きな池があり、そのほとりで酔い覚ましができるようにといくつか長椅子が置いてある。
梨央は京楽に言われるまま、その長椅子の一つに座った。
「キミに、これを」
隣に腰掛けた京楽から、ちょうど膝にのる大きさの風呂敷包みを渡された。
中には、何か柔らかい物が入っている。
「これは…?」
「開けてごらん」
頷いて結び目を解く。
「これは…」
目に飛び込んできたのは、零、の文字。
「単刀直入に言うよ」
それは、零番隊の隊首羽織だった。
「零番隊の隊長に復帰してほしい」
「……………」
手元にある隊首羽織を見つめたまま、悲しい顔をする。
「零番隊はキミにとって"もう一つの帰る場所"なんだろう?その居場所を守り続けるためにも、キミは隊長に戻るべきだ」
「仲間が…もういないのに…?」
「確かに…孤独を嫌うキミにとってあの隊舎を守ることは辛いだろう。けど今の梨央ちゃんには愛する人がいる。彼と一緒なら、その孤独さえも、乗り越えられると思う」
「どうして今日、これを…?」
「キミが迷っているように見えたから」
「!」
「迷っているうちは心に余裕が無いものだよ」
「心…?」
うん、と京楽は頷く。
「キミは強い。死神の中に於いて能力は誰よりも優れている。けど逆に言えば、キミは仲間を失うことを何よりも恐れていた。だから今も後悔してるんだろう?」
真剣な表情を向ける。
「"仲間が死んだのは自分のせい"だって」
「!!」
「自分と出会ったばかりに彼らは死ぬ結末を迎えた。もし自分と出会っていなければ、今もどこかで平和に生きていたはずだ、と…。自分の運命に彼らを巻き込まなければ、彼らは死ぬことはなかったんだと」
図星なのか、辛そうに顔をしかめる梨央。
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