第56章 Remains-彼女が泣いた日-
「是非!梨央ちゃんの好きそうなパンケーキあるよ!」
「それは楽しみ」
「カットしたフルーツが盛られたパンケーキとか、生クリームをたっぷり使ったパンケーキもあるんだ〜」
「想像しただけでお腹が空く」
腹を押さえて苦笑する。
そんな梨央を見て織姫は急に表情を曇らせた。
「あのね…聞いたよ、全部」
「!」
「梨央ちゃんがどんな人生を送ってきたのか、全部聞いた…。千年前のことも、百年前のことも、それからのことも…」
「やだなあ織姫ちゃん。
そんな泣きそうな顔しないで」
「ごめんね…あたし、気付いてあげられなくて…」
膝の上でギュッと拳を作って握る。
「梨央ちゃんはずっと…自分を犠牲にして生きてきたんだね。大切なものを守るために必死に戦ってきたんだね…」
「織姫ちゃん…」
「あたし…全然気付いてあげられなくて…っ」
涙を流す織姫の拳を手のひらで包み込む。
「ありがとう織姫ちゃん。その気持ちだけで充分だよ。優しいね、織姫ちゃんは…」
「優しいのは梨央ちゃんだよ…。みんなに心配かけたくなくていつも笑って頑張ってる…。ごめんね…不謹慎かもしれないけど…梨央ちゃんが生きててくれてあたしは嬉しい…!」
本当に彼女は優しい
他人のために涙を流して
一緒に悲しんでくれる
だからこそ彼女は
みんなに愛されるんだと思う
「今日はね、大事な話があって来たんだ」
「大事な話?」
「入籍したんだ」
「え…えええっ!!?」
悲しい表情から一変、驚きの表情に変わった織姫は声を上げて立ち上がった。
「入籍って…結婚したってことだよね!?」
「うん」
「だ、誰と結婚したの?」
「日番谷隊長だよ」
「冬獅郎くんと!!?」
更に驚きが重なった織姫はすうっと大きく息を吸いこみ、輝くような笑顔を浮かべたまま、ぼろぼろと泣き始めた。
「織姫ちゃんっ!?」
「はあぁ…ううぅ…ごめんね…っ!嬉しいのとびっくりしたのとで…気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃって…!」
梨央は立ち上がり、優しく肩を抱いて織姫をベンチに座らせる。
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