第56章 Remains-彼女が泣いた日-
「カワイイ八號ちゃんが待っとるから早う帰った方がええで〜」
その空気を断ち切るように平子の声がした。
梨央はニヤリと笑う。
「そうですよ。早く愛しの八號ちゃんに会いに行ってあげてください。きっと隊長がいなくて寂しがってますよ」
「ホウ…どうやら二人とも命が惜しくないようだネ…?」
金色の瞳に殺意が灯る。
間近に立つ日番谷は、三人のやり取りに小さく溜息を漏らす。
「こらこら喧嘩しないの〜」
パンパンと手を叩きながら京楽が言う。
「もう解散にするけど涅隊長は平子隊長と梨央ちゃんを殺さないこと!梨央ちゃんは花嫁さんなんだから!いいね?」
「そんな注意の仕方があるかよ…」
拳西が呆れたように呟く。
涅はフンッと鼻を鳴らし、阿近を従えて去っていった。
「それではこれにて、護廷十三隊定例隊首会を終わります。お疲れ様でした」
七緒が凛と通る声で宣言し、二人にとって生涯忘れることのできない隊首会が終了した。
◇◆◇
現世。
空座町・桜橋自然公園。
線路を見下ろす高台に造られたこの公園は織姫のお気に入りの場所だった。その中でも特に織姫が気に入っているのは線路側を向いたベンチで、そこから電車と町を眺めるのが好きだった。
今そのベンチに梨央は座っていた。
午後十時を回っており、眼下には空座町のこぢんまりとした夜景が広がっている。
「梨央ちゃ───ん!」
高台へ続く階段を織姫が手を振りながら駆け上がってくる。
日番谷と一旦分かれた梨央は織姫と会う約束をしていた。
「久しぶりだね、織姫ちゃん!」
「うん、久しぶり!」
織姫はそう答えつつ階段を昇りきり、「ふぅ、到着〜」と上がった息を整えた。
「遅くに時間を取らせちゃってごめんね」
「ううん、そんなの気にしないで!
会いに来てくれてすっごく嬉しい!」
三年ぶりに見る織姫の変わらぬ笑顔に思わず頬が緩む。
「聞いたよ織姫ちゃん。パンケーキ屋さんで働いてるんだって?」
「そうなの!もう毎日大盛況だよ!」
「今度食べに行こうかな」
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