第56章 Remains-彼女が泣いた日-
「ひゅ〜!七緒ちゃん、気が効くぅ〜!でも待って、本人達に伝わってないってことは完全に聡明君が嬉しさで舞い上がって一人で勝手に先走っちゃったんだよ」
温厚な笑みを浮かべる聡明は決して感情を激しく前に出さない性格だ。だが、大事な娘の結婚と聞いて、子供のように嬉しくはしゃいだ聡明は気持ちだけが前に進んでしまい、本人達に伝えるのを後回しにしていた。
その結果、挙式を二週間後に控えていることを今知らされた二人は、彼の一人走りに呆れていた。
「嬉しいんだよ」
「!」
「彼も人の親だからね。大事な娘が結婚すると聞いて本当に嬉しかったんだろう。とても喜んでたよ」
嬉しそうに結婚のことを報告する聡明を想像する。
「(なんだかんだ言って…親バカだからな、二人とも。)」
そう思えば、聡明のした行動も理解できた。
「それで七緒ちゃんとも相談したんだけどね…隊長同士の結婚なんてそうそうないし、せっかくだから式の日は終業を二時間ばかり繰り上げようか、ってことになったんだ。列席したい隊士も多いだろうし」
「そんなことまでしてもらっていいのか?」
驚く日番谷と重なるようにして、「マジですかぁ!?やったぁ!」と乱菊が喜びの声を上げた。
「…松本」
日番谷に咎められた乱菊は「はーい、すみませーん」と形だけの謝罪をする。
「まぁ二時間早めても、ちょっと遅い時刻からの式になっちゃうけど…夕暮れ時の花嫁さんも、きっと綺麗だと思うよ」
京楽が目を細める。
梨央は万感の思いを込めて頭を下げた。
「まったく、平和なことだネ…もう終わりなら帰らせてもらうヨ」
涅が列を離れ、扉へと向かう。
梨央と日番谷は左右に分かれ、道を開けた。
「精々その緩まった顔が絶望に変わらないことを祈るんだネ」
「余計なお世話です」
「それよりも約束、忘れてないだろうネ」
「は?あなたと交わした約束なんてありませんけど」
「死んだらその身体を調べさせてくれるんだろう。ちゃんと約束は守り給えヨ」
「そんな約束、一度だって交わした覚えはない。キミの勝手な妄想を私に押しつけるな」
二人は無言で睨み合う。
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