第56章 Remains-彼女が泣いた日-
「もちろん私は知っていた」
胸を張るように砕蜂は言う。
「梨央様の事は既に情報に入っている」
「ボクはイヅルから聞いたよ。おめでとう。式にお祝いの音楽が必要ならいつでも相談に乗るからね」
ローズこと鳳橋楼十郎がヴァイオリンを弾く仕草をして笑った。
「わ、私は乱菊さんから聞きました!」
隊数順に発言する流れだと察して、勇音が慌てて言う。
「オレは薄々感じてたわ。二人ともオメデトさん!コイツまた着物着れる言うてエライはしゃいどったで?」
平子は親指で背後に立つ雛森を指す。
雛森は「今あたしの話はいいでしょう…!?」と頬を赤らめた。
「あたしも知っとるよ。おめでと。……ほんでさぁ、式までに現世からパールのヘアアクセを仕入れてほしいってまた乱菊に頼まれとるんやけど、他にも要る人おらん?」
「隊首会で商売すんじゃねぇ、リサ!修兵が『静霊廷通信』でお前ぇらの結婚特集やるっつって張り切ってんぞ。嫌なら早めに断っもけよ?」
「やらせてくれ!頼む…!!」
拳西の後ろで檜佐木が両手を合わせて拝んでいる。
「俺も知ってたぜ。一角と弓親がぎゃーぎゃー騒いでやがったからな。しかし残念だな仁科、てめぇの墓の前で笑うのはまだ先になりそうだ」
ニヤリと歯を見せて笑う更木に"そういえばそんな話もしたな"と梨央は記憶を思い起こす。
「モチロン私も知っているヨ。まァ…小娘が幸せになろうが私には関係ないがネ。精々舞い上がって早死にしないように頑張り給えヨ」
梨央の片眉がピクリと跳ね上がる。
「みんな知ってたなら、結婚の報告は飛ばしてもよかったかなぁ…ところで式はいつ挙げるの?」
「具体的にはまだ…」
「あれ?でも、さっきボク、挙式は二週間後だって言われたんだけど」
「ええぇ!?誰にです!?」
「(まさか…)」
日番谷には思い当たる節があった。
「君のお父上に」
人差し指を立てて天井に向ける。
「(やっぱりな。)」
「……………」
梨央は片手で顔を覆って項垂れている。
「お二人は準備があるでしょうから、その前後を含めて三連休にしておきました」
.