第56章 Remains-彼女が泣いた日-
「だって嫉妬してくれるってことは私は愛されてる証拠じゃないですか」
「お前はサラッとそういうことを…」
「恥ずかしがってる隊長はレアですね」
「うっせえ」
私の愛した人は
とても優しくて少し可愛い
「一通り片付けは終わりました」
「零番隊舎はこんな感じなんだな」
「研究室とか応接室もありますよ。ここで過ごした日々は、私にとって忘れられない思い出です」
かつて仲間と過ごした隊舎に懐かしさを感じる。
「そろそろ時間だな」
「行きますか」
「ああ」
零番隊舎に名残惜しさを残して二人は応接室を出て行った。
◇◆◇
中央一番区。
梨央達が金印貴族会議の書状受付窓口へ到着すると、すでに連絡を受けていたらしい壮年の役人が一人、最敬礼で出迎えた。
「お待ちしておりました。
既に手続きは完了しております」
「!」
「ちょっと待て」
「はい?」
「婚姻認許状は当主であるコイツがするんじゃないのか?」
「本来はそうなのですが、今回は最高貴族である貴女様のご関係者の要望でその方に手続きを行っていただきました」
「関係者?誰です?」
「粟生魅聡明様とおっしゃっていました」
「!」
「素敵なお父上様ですね」
「え?」
「電話越しで『幸せを望めなかった娘が愛する人と幸せになるんです。親としてはそれが最高の親孝行です』そうおっしゃっておりました」
男はにこやかに笑む。
梨央は何か胸の奥から湧き上がる感情に、ぐっと下唇を噛んで耐える。
そんな彼女を見て日番谷は背中を優しくポンと叩く。
二人の様子を微笑ましそうに見た男はゆっくりと口を開いた。
「日番谷冬獅郎様、"日番谷"梨央様」
梨央の肩がビクッと跳ねた。
「ご成婚、おめでとうございます」
言って、二人の前に一枚の紙を差し出す。
【婚姻受理証明書】とあった。
「ありがとう…ございます…」
あまりにも手続が早かったため、ポカンとしたまま証明書を受け取った梨央だったが、そこに記された【日番谷梨央】という文字を見た途端、我慢していた涙が溢れた。
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