第56章 Remains-彼女が泣いた日-
九席以上の席官は、隊舎内に私室を与えられる。
ほとんどの者がそこで寝起きをするが、隊舎外に居住したい者にはその席次に応じた等級の住居が与えられる。
三席までは集合住宅の一室が貸し出されるにすぎないが、隊長•副隊長ともなると、"邸宅"と呼べるほど大きな一軒家が支給される。
二人は婚姻成立後、その制度を利用し、中央一番区に建つ邸宅へ移り住むことになっている。
「!」
ふと目に止まったウサギの人形を無言で見つめる。
「隊長、この子もいいですか?」
抱き上げたリキュールを胸に抱える。
「その人形…鬼灯のか?」
「はい…この子も大切な仲間なので」
「わかった。コイツも一緒に連れて行こう」
日番谷はリキュールの頭の上に手を置いて笑んだ。
「良かったね、リキュール」
作った本人である霙の魂が消え、意思を維持することができなくなったリキュールはただの人形になってしまった。
梨央は霙にとっても、自分にとっても大事なリキュールを箱に詰めることはできず、新居に連れて行くことにした。
「リキュールって言ったか」
「はい」
「鬼灯が作ったんだろ?」
「ええ。彼女がリキュールに魂を与えました。けど…霙がいなくなった今、この子はただの人形です。……いつか、返さなきゃな」
「返す?」
「本来いるべき場所に」
梨央は笑むとリキュールをソファーに置いた。
「あれ?」
「どうした?」
「いや…テーブルの下に小包が…」
「誰からだ?」
「えーと…【浦原喜助】……」
差出人は親交が深い浦原からだった。
「いつの間にこんな物…」
僅かに眉を潜める。
「開けるのが怖い…」
紙包みを破いた梨央が、箱の蓋に手をかける。
箱が開き切る直前、中から、ボゥン!と白い煙が吹き出し…
《どぉ〜もぉ〜!ご無沙汰しております〜!》
と浦原の声が流れ始めた。
「うわッ!?」
梨央が驚いて箱を投げ出そうとするが関係なく、音声は流れ続ける。
《梨央サン、日番谷サン、ご結婚おめでとうございま〜す!》
声に合わせてファンファーレが鳴り響く。
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