第55章 Blessing-これからの未来-
「何?」
首だけを後ろに向け、雅を見る。
「幸せに」
微笑む雅に嬉しそうに笑い返す梨央は面会室を出て行った。
「そうか…結婚するんだ」
ぽたり、と膝の上で握った拳の上に涙が落ちる。
「よかった…彼女が幸せになってくれて。あの頃の彼女は泣いてばかりだったから…笑顔になってくれて…本当によかった」
滅却師に里を襲撃された日
彼女はとても泣いていた
小さい体を震わせて
外から聞こえる音に耳を塞いで
恐怖に堪えきれず泣いていた
僕はそんな彼女をずっと見ていた
“いらないもの”を排除しないといけないのに
彼女の泣き顔を見ていたら
殺すことなんて忘れてしまっていた
「(ずっと泣いてたな。綺麗な瞳からたくさん涙を流して…独りぼっちで泣いてた。)」
雅の脳裏に独りぼっちで泣いている梨央の姿が蘇る。
「(あの頃の僕は、彼女が何で泣いてるのか分からなかったんだっけ…。分からないから…“壊そうとした”。)」
“壊さなくてよかった”
今は本気でそう思う───。
「僕の世界はいつも死んでた。でも君の存在が僕の世界を変えてくれた。君がいたから僕は今、この世界にいるんだ」
天井を仰ぐ雅は嬉しそうに笑った。
「どうか彼女の幸せがこの先も永遠に続きますように」
黄金色の瞳が優しげに緩められる。
ガチャッ
「時間だ」
監視役の男が扉を開けた。
雅は椅子から立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
彼女は僕を見つけてくれた
陛下が僕を見つけた時の目とは違う
優しい眼差しで
僕の存在を受け入れてくれた
そして世界に平和が戻った今でも彼女は
こんな僕に会いに来てくれる
あの頃と変わらない
優しい眼で────。
「(君に出会えてよかった。)」
心の底から感謝した。
そして仲間の姿が思い浮かぶ。
「(こんなこと、言う資格はないってわかってるけど…)」
それでも───……
「もう一度だけ…みんなに会いたいなぁ…」
切なく眉を下げた雅は目に涙を浮かべたまま、どこか悲しそうに、仲間の面影を追うように笑った…。
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