第55章 Blessing-これからの未来-
閉まった扉を見つめた後、ゆっくりと前を向く。ガラス壁の向こう側にいる少年は相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。椅子に座り、少年を見て静かに口を開いた。
「久しぶりだな、雅。」
「久しぶり。三年ぶり…かな」
彼の名は流祇流雅。
零番隊第三席に在籍し
梨央達と共に戦った
心優しき彼女の仲間だ
「気分はどうだい?」
そして…
「あんまり好調とは言えないよ」
その昔、死神と敵対関係にあった
滅却師の仲間であると同時に
“名も亡き人形”として存在していた
かつての彼女達の敵である────。
「ちゃんとご飯食べてる?」
「毎日美味しいご飯で満足してるよ」
「鎖で繋がれてる分、自由は制限されるけど我慢してね」
雅の両手は特殊な鎖で繋がれていた。
あの大戦後、“尸魂界の裏切り者”として四十六室の査問に掛けられた雅は実刑を受けた。
『判決を言い渡す』
『元・零番隊第三席、流祇流雅』
『地下監獄最上層第零監獄“罪禍”にて』
『5万9900年の投獄刑に処す』
『その両手の拘束は罪人の証』
『その右眼の封印は戒めの証』
『…何か言い残すことはあるかね?』
『いいえ。自分の犯した罪を受け入れます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…』
そうして雅は罪禍に収監されている。
「…両手の拘束を解くには"鍵"が必要みたいなんだ。ほら見て、鍵穴が無い手錠なんて初めて見た」
拘束された両手の手錠には鍵を差し込む為の鍵穴が無い。
「そしてこの右眼…何も見えないんだ。視力を失ったとは意味が違うんだけど…なんだか世界の半分が無くなったみたいに感じる」
戒めとして右眼を"封印"された雅は、もう何も見えていない右眼にそっと触れた。
綺麗な黄金色の瞳が輝きを放っている。
「まぁ…こうなったのは自業自得なんだけどね」
苦笑する雅はどこか悲しそうだ。
「差し入れだよ」
ガラス窓の下部分に円形の空間が空いている。そこに持ってきた本を差し出して雅に渡す。
「ありがとう。退屈してたんだ。
この本は読んだことな…」
本に記載されている著者名を見て雅は言葉を止めた。
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