第55章 Blessing-これからの未来-
「お久しぶりです、老師。
いえ……───柊医師」
「……………」
梨央は頭を上げる。
「随分とお変わりになられましたね。最初会った時は全然気付きもしませんでしたよ」
「儂はすぐにお主達を見て分かっておったよ。あの頃の子供達が随分と大きくなったのぅ…梨央や」
柊は懐かしむように目を細めた。
「医師は…あの後どうされたんですか?」
「……………」
柊はチラリと後ろにいる少年を見遣る。
「避難させておったんじゃよ。“殺し方も知らぬ孤独で優しい暗殺者”をな」
「!」
「じゃが其奴を避難させた後、里に引き返そうとしたところで滅却師の連中に見つかってしもうてな…」
「外にも滅却師の残党が…?」
「元軍人といえど体力には限界がある。全員一掃させたのは良かったんじゃがのぅ…あの騒動の疲労もあってか…意識を手放してしまったんじゃ」
「そうだったんですか…」
「目が覚めた時にはあの村に運び込まれておったよ。どれくらいの時間眠っていたのかは分からぬが、儂は急いで里に戻った。そしたら蒼月の里が滅茶苦茶じゃった…」
「……………」
「絶望したよ。そして確信した。三大家は…罪禍達は負けてしまったのだと。子供達の姿も見当たらない。あの里が消えてしまったんじゃ。儂は信じたくない気持ちで吠葛に引き返した」
「そしてあの村で暮らし始めたのですね」
「然様。じゃが…目の前にお主と蒼生が現れた時は…涙が溢れそうだった。生きておったのか…と安心した。思わず笑みが零れそうだった」
嬉しそうに笑った柊は優しい声で言う。
「良い仲間に巡り会えたな」
「はい」
「良い友達にも恵まれた」
「…進んだ道は違いましたけどね」
「あの子達も救われたじゃろう。“あの日の呪縛”から…。お主達が力を合わせて自力でその呪縛を解いたのじゃ。流石、幼馴染みじゃな」
梨央は軽く笑んだ。
「さて…老いぼれはこの辺で退出しようかの」
「医師はどうして此方に?」
「なァに…ただの“気まぐれ”じゃよ」
去り際に梨央の肩に手を置く。
「あの子のこと…しっかり見てやりなさい」
そして柊は面会室を出て行った。
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