第55章 Blessing-これからの未来-
『留守を頼んだぞ、冬獅郎!』
先の十番隊隊長は、豪快に笑う男だった。
黒崎一心────旧姓志波一心は、黒崎一護の父であり、岩鷲の叔父である。
「(志波岩鷲…か)」
背を向け、歩き出す。
いつの日か、死神になった彼と静霊廷で再会するかもしれない─────日番谷は、漠然とそう思うのだった。
◇◆◇
隊舎に戻って来た日番谷は執務室の扉を開ける。
ガラッ
「!」
ソファーに座り、本を真剣に読んでいる梨央の姿を見て、日番谷はそっと彼女の後ろに回り、手元を覗き込む。
梨央が夢中になって読んでいるのは『双魚のお断り!』だ。
その眼差しは悲しみの色を宿している。
「浮竹の小説か?」
「わっ!」
突然声をかけられ、集中力が切れた梨央は体をビクッと跳ねつかせて後ろを振り返り、日番谷を見た。
「悪い、そんなに驚くとは思わなかった」
「いえ、平気です」
梨央は目を細めて笑う。
「さっき行った図書館で借りてきたんです」
「図書館?」
「矢胴丸隊長と行って来たんです」
「そうか」
「『双魚のお断り!』の隠れファンなんですよ。敵の手に落ちた村の巫女を双魚が深手を負いつつも救い出す、そんな内容なんです」
指で挟めていたページを開いて文字に目を落とす。
「【自分を護って負った傷は痛い。でも誰かを護って負った傷は痛くないんだ!】浮竹隊長の真っ直ぐな心を映したような、双魚の言葉…。三年という月日が流れても、隊長の心は、書き遺した物語に、人々の記憶に、消えることなく生き続けている」
静かにページを閉じた。
「浮竹隊長には本当にお世話になりました。私が隊長に就任して間もない頃です。あの人は隊長業務も分からない私に優しく教えてくれた。隊長の最期には立ち会えませんでしたが…きっと幸せだったはずです」
「何故そう思う?」
「浮竹隊長は…誰よりも平和を愛した人ですから」
梨央はにこりと笑んで答える。
「隊長は…ずっと傍にいてくださいね」
「!」
「私を独りにしないでくださいね」
「……………」
「もしいなくなったら寂しくて泣いちゃいますからね」
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