第55章 Blessing-これからの未来-
瀞霊廷に沿って町外れの道を歩いていた日番谷は白道門見えたところで、ふと足を止めた。
「ガキンガキンッ!シュオオオ───、ドォ───ン!!」
「ウギャーやられたー!!
こうなったらお前も道連れに…!」
「そいつはお断りだ!シュババッ!!」
「ぐああっ!!双魚め!覚えてろ〜〜!!」
路地裏から聞こえてくる、少年と青年のごっこ遊びの声。
「(この声…どこかで…)」
適役を演じる青年の声に、聞き覚えがあった。
「あははは!岩鷲にいちゃんって、やられ役ほんとうまいよね!いっつも空鶴様に怒られてるからかなぁ?」
「うっせーほっとけ!…ほら、これ終わったら帰る約束だろ?」
「はぁーい。じゃまたね、岩鷲にいちゃん!」
「おう!気ぃつけてなー!」
少年の足音が遠ざかっていく。
適役の青年は民家の角を折れたところで日番谷に気付き、"うおっ!?"と身をのけぞらせた。
「あ、あんた、十番隊の…!」
「日番谷冬獅郎だ。
お前は…志波岩鷲、だったか?」
「ほぼ初対面なのによく俺のフルネーム出たな!?」
「お前が志波家の者だってことは覚えていたが、名前は…さっき子供にそう呼ばれてたからな」
「ああ、それでか…。
なんだ見てたのかよ…双魚ごっこ」
「双魚ごっこ…?」
「アンタ、死神のくせに知らねぇのか?『双魚のお断り!』は浮竹さんの名著だろうが!」
岩鷲は心底意外そうに言う。
『双魚のお断り!』は、十三番隊隊長・浮竹十四郎が『静霊廷通信』で連載していたアクションアドベンチャー小説である。
「ああ…あの小説か」
「反応薄いな!すげぇ人気あるんだぜ?」
『双魚のお断り!』は主人公・双魚が村人を守り悪に立ち向かう、一話完結型の勧善懲悪劇であり、特に子供に人気の作品だった。
「…新作、もう読めねぇんだな…」
日番谷は白髪の死神を思い、小さく唇を噛んだ。
「引き止めて悪かったな。
帰るところだったんだろ?」
「いいんだ。…話せてよかった」
わずかに笑んだ日番谷を見て、岩鷲も笑った。
「へへっ、そうかよ!じゃあな、隊長さん!」
去っていくその背中に日番谷はかすかな懐かしさを覚える。
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