第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「信じられないかもしれませんが…私は零番隊隊長を務め、仲間と共に滅却師の始祖を討った仁科梨央です」
“だから…”と言葉を促す。
「離れて行かないで…っ」
繋ぎ止めるのに必死だった
思いを伝えるのに余計な言葉は必要ない
この人には…隠し事はしたくない
「…相変わらず泣き虫なのは変わらねえな」
「!」
日番谷が此方を振り返る。
「日番谷隊長…?」
「梨央」
「っ、」
嬉しそうに笑った日番谷はどこか泣きそうだった。それにつられた梨央も顔を歪め、涙を流す。二人は…再会を喜び合うかのようにお互いの体を抱きしめた。
「隊長!日番谷隊長!」
「あぁ。梨央」
「うぅ…会いたかったです…」
「俺も会いたかった」
「色々とごめんなさい…」
「謝るのは俺だ。冷たく突き放して悪かった」
ぶんぶんと首を振って否定する。
「話してくれるか、全部」
「はい…」
日番谷の手に引かれ、ソファに座る。
「記憶を取り戻したのは数時間前です。罪を犯した私は三年前のあの日に消えた筈なんです。でも不思議なことにこうして生きてる。真相を確かめるべく蒼月の里に向かいました。そこで…私の父から全てを聞かされたんです」
「聞かされたって…何をだ?」
「蒼生も私と同じ罪人だったんですよ」
「!?」
「彼も私と同じ取引を持ち掛けられたそうです。“自分が消える代わりに、妹を助けてほしい”。それが兄が『悪』と交わした契約でした」
「高峰はお前の幸せを望んだんだな…」
「はい。兄の願いは私の幸せでした。蒼生はいつだって…私のことばかり考えてくれてた。だから罪を犯すことに後悔はなかったんです」
「……………」
「きっと蒼生にとって『それ』が正解だったんだと思います」
「寂しくないのか」
「…寂しいですよ。だって…兄のいない世界を生きることになるんですから。それでも約束したんです。“諦めない”と。だから頑張りますよ」
「(泣くと思った。こいつは高峰が大切だったから…)」
「泣きませんよ」
「!」
日番谷の気持ちを汲んだように先読みし、にこりと笑んだ。
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