第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
名を呼べば、彼女の眼が大きく見開かれる。そして驚いた顔で日番谷を見つめた。それで確信した。目の前にいる彼女は───……
「お前…なのか?」
「っ………!!」
動揺した。それを日番谷は見逃さない。
「答えろ!お前は───……」
青ざめた顔の梨央が日番谷を突き飛ばす。
「なっ!?」
押された反動で床に尻もちをつき倒れる。その間に梨央は逃げるように慌てて扉まで走った。
「(逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ…!!)」
名前を呼ばれた瞬間、もうだめだと思った。だから早く逃げたかった。涙で視界がぼやける。
「(今度こそ傷つけないと決めたのに…)」
蒼生と約束した
愛する人と幸せになりたいと
でも…私のせいでまた傷付けてしまうのが怖い
「(だから…私から解放してあげないと。)」
ドアノブを掴もうと手を伸ばす。
「のッ…逃げんな!!」
「!!」
後ろから手を引っ張られ、バランスを崩す。
ドターン!
「っ…………」
痛…く、ない?
床に倒れた痛みがいつまで経っても襲ってこず、不思議に思い、閉じていた目をそろっと開ける。
「!!」
梨央の体は日番谷が両手で包み込んで守ってくれたおかげで怪我をせずに済んだ。
「た、隊長!!大丈夫ですか!?」
ガバッと身を起こして日番谷を見る。
「急に引っ張ったら危ないじゃないですか!私は隊長が庇ってくれたおかげで怪我はしませんでしたが一歩間違えれば隊長まで怪我をしていたかもしれないんですよ!」
「……………」
「…隊長?どうかしました?」
心配するも日番谷からの返事はない。
庇った衝撃でどこか痛めたのか、そう思って身を起こして確認しようとした。
「…ふざけんな」
「!」
「何で逃げんだ莫迦。俺がお前を逃すとでも思ったのか。逃すわけねーだろ」
「…隊長。」
目は合わせてくれない。こっちを見てくれない。その瞳に宿る感情は読み取ることは出来ないが、声は確実に怒っていた。
「…日番谷隊長」
悲しげに名前を呼ぶ。
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