第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
ガチャ
「!」
十番隊に戻ると日番谷が机に向かって仕事をしていた。ドクンッと心臓が鳴ったのがわかる。記憶が戻った今、どんな顔で日番谷と会えばいいのか分からず、気まずさが襲う。
「そんな所に突っ立ったままでどうした?」
声を掛けられ、びくりと体が跳ねる。
「い、いえ!何でもありません!」
「?」
挙動不審な梨央の様子に日番谷は不思議そうな顔をした。だが大して気にも止めず、会話を続ける。
「さっき」
「は、はい!」
「……………」
「(まずい。声が裏返った。)」
「お前の友達が来てたぞ」
「友達?」
「五番隊の」
「あぁ、未亜ちゃんですか」
「お前はいないと伝えたら帰って行った」
「そ、そうでしたか…」
やけに言葉をどもらせる梨央に日番谷は違和感を感じた。眉を顰めて梨央を訝しげに見つめる。
「お前、なんか様子が変じゃねえか?」
「え!?」
「何かあったのか?」
「いえ…特には…」
日番谷の視線から逃れるように目を逸らす。
「何もないならどうして目を見ない?」
「(落ち着け。冷静に。冷静に…)」
「ちゃんと目を見て話せ」
少し強めに言った日番谷の声に梨央の顔が強張る。それでも日番谷と視線が交わることはない。
「仁科」
「は、はい…」
「今の俺の話、聞こえなかったか?」
「いえ…聞こえました」
「……………」
梨央の態度に若干の苛立ちを募らせた日番谷は仕事を中断し、椅子から立ち上がる。
「(な、何で近づくの…)」
どこか怒った顔の日番谷がこちらに歩み寄って来るのを見て思わず一歩後ずさる。
「隊長、どうかしました…?」
「どうかしてんのはお前だ。そんなに俺に近づかれるのが嫌か」
「ち、違…!これは…その…」
「俺はお前に何かしたつもりはねえぞ」
「わ、わかってます…」
「なら何で逃げる」
「(どうする…なんて説明して逃げ…)」
「お前、何か隠してるだろ」
「か、隠してません」
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