第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「おかえり 梨央ちゃん」
「ただいまです」
お互いに笑い合う。
「その斬魄刀に触れられたって事は…天照も君の帰りをずっと心待ちにしてたみたいだね」
手にした刀を見る。
「拒絶されてしまったら私は別の斬魄刀と一から対話しなければなりませんでしたよ。でもこの子ならきっと大丈夫だと信じてました」
それはそれで面倒だと苦笑した。
「そうだ」
「!」
「せっかく記憶も戻った事だし、浮竹にも会って来たらどうだい?」
「…そう、ですね」
「きっと君に会いたがってる」
「はい…」
「場所はわかる?」
「大丈夫です」
京楽に頭を下げ、一番隊の保管庫を出ると、浮竹がいるであろう場所へと向かった。
◇◆◇
「お久しぶりです、浮竹隊長」
墓碑の前に跪いて挨拶を交わす。そこには浮竹が眠っていた。ここに来る途中で摘んだ花をそっと置いて両手を合わせる。
「此処に来るまで三年の月日が経ってしまいました。遅くなり申し訳ありません」
深々と頭を下げ謝罪した。
「隊長が霊王の身代わりになってくれたおかげで尸魂界は守られました。“ミミハギ様”の力を使ったのですね…。優しかった貴方がこの世からいなくなったのは…とても寂しいです」
その眼は涙で潤んでいる。
「いつか教えてくれましたね。“戦いには『命を守るための戦い』と『誇りを守るための戦い』の2種類がある。戦いに身を置くものはそれを見極め続けなければならない”と…」
供えた花が柔らかな風で揺れる。
「『お前はお前の守り方を貫き通せばいい。お前はその二つを見極め続ける事ができるんだから』」
浮竹と過ごした思い出が一気に蘇り、梨央は下唇を噛んで泣くのをグッと堪えた。
「もし『そちら』で兄と会ったら、気にかけてあげてください。私と似てすぐに無茶ばかりしてしまうので」
涙を浮かべたまま、小さく笑う。
「今までありがとうございました」
感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
立ち上がってもう一度だけ手を合わせる。
「どうか安らかに」
別れの挨拶を交わすと背を向け、名残惜しそうにその場から立ち去った…。
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