第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「君の父上からこの場所を聞いたんだろう?」
「……………」
この人にこれ以上
誤魔化しは利かないか
「上手く隠し通せると思ったんですがね…」
溜息を吐く。
「じゃあ本当に…」
「三年ぶりですね、京楽隊長。
いえ…今はもう総隊長でしたね」
笑んで言えば、京楽は瞠目した。
「…いつから?」
「全てを思い出したのは数時間前です」
「どういうキッカケだったんだい?」
「父が冥土の土産にくれた石のおかげです。まさかアレが私の失われた記憶を取り戻すアイテムだったとは思わなかったですけどね」
「そうか…。疑うわけじゃないけど…本当に梨央ちゃんなんだね?」
「亡霊じゃないですよ」
「確かに。亡霊が物に触れるなんてことあり得ないからね。君はちゃんと生きてるんだ」
「そういうことです」
「けどどうして生きてるの?日番谷君の話だと君は世界から消えた筈じゃ…」
「一度は消えましたよ。でも兄のおかげで生きてます。その後遺症で記憶を失うことになりましたが」
「…どういうことだい?」
「私と同じですよ総隊長。私の罪を知った蒼生が“私が消えないように『悪』と取引をした”。自分が消えることを条件に、彼は私を救ったんです」
「!?」
「兄の望みはこうでした。『自分が妹の代わりに世界から消える。だから妹を助けてほしい』。蒼生は…私の為に罪を犯したんです」
「…君が消えた後、高峰君の行方も分からなくなった。だから…てっきり君の後を追ってしまったんだと思っていたんだ。…まさか…彼も梨央ちゃんと同じだったなんて…」
驚きを隠せない享楽に言う。
「約束したんですよ兄と。“これからの人生で絶望に呑まれる事があっても、絶対に諦めない”って。だから…私は生きます。心の中で生き続ける兄を心配させない為にも」
「そっか。うん、いいと思うよ。自分でそう決めたならボクは応援する」
「ありがとうございます」
「それで…みんなには伝えるのかい?」
「いえ。記憶が戻ったことは伏せておこうと思います」
「日番谷隊長にも伝えないの?」
「…はい」
「…分かった。ボクも出来る限りサポートする」
「心強いです」
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