第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「聡明」
「!」
「もう大丈夫だ。私は自分の足で前に進める。いつまでも泣いていたら蒼生が心配するしな」
吹っ切れたような顔をした梨央を見て、聡明は安心したようにホッと胸を撫で下ろす。
「いつもの貴女に戻りましたね」
「蒼生と最後の別れを交わしていた」
「そうでしたか…。随分とスッキリした顔です。あれ以上に泣かれたら困ってました」
「キミは怒るのが本当に苦手だな。私を叱る時も内心では“どうしよう”って思ってただろ」
「怒るのは苦手なんです。貴女達を叱る役目はいつも罪禍に任せてましたから…」
聡明は困った顔で苦笑する。
「ところで聖兎達はどうしてる?」
「零番離殿の方にいます」
「そうか…双子は元気?」
「気になるなら会いに行かれては?」
「時間が出来たら会いに行くよ。それより…これからどうするかな」
「日番谷様に記憶が戻られたことを伝えては如何です?」
「…正直、伝えるべきか悩んでる」
「何故ですか?」
「…怖いんだと思う。あの人と幸せになりたいと思った。けど…私のせいでまた悲しませるかも知れないと思うと…記憶を失ったフリを続けた方が幸せなんじゃないかって…」
「……………」
「私は傍にいられるだけでいいの」
「本当にそれでいいんですか?」
「え?」
「後悔しませんか?」
「それであの人がこの世界にいてくれるなら」
「そうですか…」
聡明はそれ以上何も言わなかった。
「私の斬魄刀は何処にある?」
「一番隊の保管庫にあります」
「忍び込むのは難しいか…」
「案外上手くいけるかもしれませんよ」
「何を根拠に…」
「貴女は誰なんです」
「!」
「仁科家の当主であり、零番隊の隊長じゃないんですか?自信に満ち溢れたいつもの貴女はどこにいったんです」
聡明の挑発的な言葉に驚いたが、すぐに深い笑みを浮かべる。
「上等だ。忍び込んで取り返しに行ってやる」
「その意気です」
「じゃあそろそろ行く」
「健闘を祈ります」
「父様」
「!」
「ありがとう」
聡明は優しげな顔で梨央を見送った。
.