第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
それを聞いた梨央はまた泣き始める。
「(会いたいのに…会えない。)」
悲しみが一気に押し寄せた。
「お兄ちゃん……────」
『まーた泣いてんのか』
「っ!」
声がした
少し呆れたように笑う
兄の声が────。
「…蒼生?」
キョロキョロと周囲を見渡す。それでも蒼生の姿はどこにもなかった。少しでも期待した自分が愚かで唇を噛む。
『梨央』
そう名前を呟かれた瞬間、目の前の景色が色褪せて変わる。屋敷にいたはずなのに…何故か水の上に立っていた。空は梨央の好きな青空がどこまでも広がっている。
((ここは…?))
『俺がお前の意識だけを喚んだんだ』
懐かしい声に顔を向ければ、少し離れた場所に蒼生がいた。すぐに駆け寄ろうとしたが縫い止められているかのように足が動かなかった。
((蒼生…!!))
『本当は会わねえつもりだったのに、お前が泣くから会いに来ちまったじゃねーか』
((どうして…キミが…))
聡明から説明されたが、どうしても本人の口から聞きたかった。それを問われた蒼生は困った顔をした。
『“どうして”…ね。それはお前が一番よく分かってる筈だろ?』
((私の為に世界から消える必要なんてないんだよ?蒼生はみんなのいる世界で生きるべきなのに…))
『それはお前も同じだろ。お前は必要な存在なんだよ。尸魂界の奴等にとっても…現世の奴等にとっても。だからお前は生きるべきだ』
((私は…キミのいない世界で幸せに生きていける自信がない…))
『はぁー…俺の妹はいつからそんな弱気になったんだ?』
((私、強くないもん…。))
『もう子供じゃないんだ。俺がいなくても大丈夫だろ?』
((寂しい…。寂しくて心が死んじゃう…っ))
ポロポロと涙が溢れる。
『日番谷をまた悲しませるつもりか?』
((!!))
『三年だ…。あいつはお前が消えてから三年、お前に会えない苦しみに耐え続けたんだ。そしてお前のいなくなった世界を三年も生きた』
((…………))
『分かるんだよ。あいつはお前のことをすげえ大事にしてる。大切に想ってる。だから俺はあいつにお前を託したんだ』
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