第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「『幸せになってくれ』『梨央』」
驚きで見開いた目から涙が溢れる。
「…それが蒼生が君に残した言葉だよ」
「なんだ…それ…」
くしゃりと顔を歪めて拳を握る。
「自分は消えて…私には幸せになれ?キミのいない世界で私は生きるのに…?」
「………………」
「ふざけないでよ…。キミを独りにさせたくなくて…護りたくて傍にいたのに…どうして私の代わりになったの…!」
泣き顔のまま、もうこの世界にはいない蒼生に怒りをぶつける。
「君を死なせたくなかった」
「それは私だって同じ!」
「それだけじゃない。君が消えれば悲しむ人がいるだろう?愛する者と引き離される辛さを蒼生は知っていたんだよ」
「!」
「だから蒼生も君と同じ選択をした。彼は君の幸せを願った。救いたいと望んだ」
「やだ…やだぁ…っ」
蒼生がいないという現実を受け入れられず、子供のように泣きじゃくる。
「うぅ〜…ひっく…蒼生に…会いたい…っ」
「もう会えないんだ」
「傍にいるって約束した。私を独りにしないって約束した…!」
「そうだね。ずっと傍にいて君を護ると蒼生は罪禍と約束した。君にも誓った。でもね梨央、蒼生の気持ちも考えてほしい」
宥めるように優しく声を掛けるが、梨央は聞きたくないと云っているかのように首を振る。
「梨央」
「やだ!聞きたくない!」
「駄目だ。ちゃんと聞きなさい」
「っ…………」
父親の顔で聡明は厳しく言い聞かせる。けれど叱られて落ち込んだ梨央の悲しげな顔を見て聡明は苦笑した。
「(ああ…やっぱり怒るのは苦手だ。)」
「…聞く」
「!」
「父様の話…ちゃんと聞く…」
「ありがとう」
目を真っ赤にさせた梨央の言葉に聡明は温和な笑みを浮かべた。
「蒼生はとても辛そうだった」
「辛そう…?」
「君と同じだよ、梨央」
「!」
「蒼生も君を護りたかった。たとえ自分が君の代わりに世界から消えることになってもね」
「……………」
「だから罪を犯したんだ。世界の何よりも…君が大切だったから」
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