第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
“お前が妹を利用するなら、俺がお前に利用されてやる”ってな。だから俺は自分から取引を持ち掛けた。
“俺があいつの代わりに世界から消えてやる。その代わり、梨央を助けてくれ”ってな。
そいつは嗤っていた。“妹はお前を護る為に罪を犯した。そしてそのお前は妹を護る為に罪を犯すのか”と。狂った兄妹愛だと馬鹿にされたが、それでもあいつが幸せになれるなら俺は消えても構わないと本気で思っていた。
『梨央に後遺症が残るかも知れないって言われたが…記憶の一部が欠落する事くらい、死ぬよりマシだろ。まぁ…記憶喪失になっちまうあいつの気持ちを考えると…心が痛えけどな』
そして俺は奴との取り引きに応じた。契約成立の証としてあいつと同じ場所に不思議な紋章が刻まれた。
“妹は復讐者となり、生き返った。そして兄は妹を守る為に罪を犯し、自ら消えることを選んだ”
“こんなに最高で馬鹿げた兄妹なんてお前達以外どこを探しても見つからないだろうなァ!”
“歪んでるよ、お前達兄妹はさ!”
ぶん殴ってやろうとも思ったが、聲が頭の中から聞こえる為、それも叶わなかった。
『俺はあいつに生きててほしい。復讐者として死ぬのは俺が許さない。俺の妹は…尸魂界にとっても現世にとっても必要な存在だ。何より…大事な妹を簡単に死なせてたまるか』
生まれた時からずっと一緒だった。何をするにも後をついて歩いてくるし、傍にいないと俺を探しに来る、どうしようもない妹。世界で一番大事な───俺のたった一人の妹。
◇◆◇
『あの子はきっと泣きますよ』
聡明の言葉に蒼生は小さく笑う。
『そうだな。あいつは俺が好きだからな』
『おや。君だって妹のことが好きだろう?』
『……………。』
蒼生はぐっと言葉に詰まり、ジロリ…と聡明を見遣った。聡明はクスクスと小さく笑う。
『急に父親モードになんのやめろよ』
『お仕事モードと父親モードの切り替えが最近ズレてしまうんですよね』
苦笑する聡明に蒼生は溜息を吐いた。
『俺がいなくてもあいつなら大丈夫だ。きっと前を向いて歩んでいける。あいつが捨てた未来を。その為に日番谷がいるんだからな』
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