第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
『聡明、頼みがある』
『何でしょう?』
『梨央に会ったら俺の罪を伝えてやってくれ』
『…いいのですか?』
『あぁ。俺はもう妹に会うことはない。だからお前の口から真実を話してほしいんだ』
『…わかりました』
俺の言葉に父さんは軽く頷いた。
『(始まりは梨央への違和感だった…)』
花瓶の花を摘みに行って帰って来たあいつの様子がおかしいことに気付いた。正確には“何がおかしい”のか『答え』を知るまで分からなかったが…あいつが俺を“キミ”と呼んだ時点で明らかに妹の様子が普段と違うことに違和感を覚えた。
『あいつが俺を他人みたいに呼ぶんだ。まるで俺とあいつの間に一枚の壁があるかのように余所余所しい呼び方だった』
何かを隠してることは明白だった。だから口ごもるあいつを問い質したが“死神の採用試験を受ける”という上手い誤魔化し方をされてしまった。
『あの時は俺も大して気にしてなかったんだ。梨央があれ以上話すとも思わなかったしな』
本を読むために自室に戻った俺に得体の知れない聲が頭の中に語りかけてきた。そいつは自分を『悪』と呼称し、望みを叶える手伝いをする代わりに妹の中に棲まわせてもらっているのだと気味の悪い笑い方で言った。
『信じられるか?ユーハバッハに殺された梨央が復讐の為にそいつと契約して生き返ったんだぜ?最初聞いた時はふざけてんのかって思ったわ』
“ユーハバッハに復讐したい”
それがあいつの望みだった。だからそいつは妹の気持ちを利用して取引を持ちかけた。俺ならそんな取引に応じるなんて絶対にしない。でも梨央はそいつとの取引に応じた。
『それ聞いた時さ、梨央のこと“莫迦妹”って思ったよ。莫迦過ぎて説教したくなった。でも思ったんだ。もし俺があいつの立場ならきっと同じことをしてたって』
あいつが俺のことを想ってくれてんのは子供の頃から知ってる。だから罪を犯すことに罪悪感も後悔もなかったんだろう。全てそれが“俺のため”だったから。
『だからだろうな…気に食わなかったんだよ。梨央がそいつに上手いように利用されんのも、今以上に梨央が傷付くもの。それが許せなくて俺はこう思っちまったんだ』
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