第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「既にお察しかと思いますが、貴女は生きています」
「……………」
「ちゃんと生身の身体でこの世界に」
目を閉じ、穏やかな表情で言う。
「聡明、一つ聞きたい」
「何でしょう?」
目を開け、梨央を見る。
「蒼生はどこにいる?」
しかめた顔で聡明を質す。
「───いません。」
「……は?」
耳を疑った。何の躊躇いもなく言葉にした聡明に唖然とする。
「いないって…どういう…」
「言葉通りですよ」
「…何言ってるの?」
益々聡明の言っている意味が分からず、混乱する。すると彼は梨央に歩み寄り、しばらく見つめた後、口を開いた。
「梨央、いい加減真実を見なさい」
「!」
突然、父親口調に変わった聡明に梨央はびくりと身体を跳ねさせる。
「真実…?」
「『目に見えない真実に気付け』」
「っ………」
「そろそろ…その真実に向き合うべきだ。君は本当は知っている筈だよ。でも君はその真実に目隠しをしたから君は気付けないままでいる」
「やめて…」
「梨央」
聡明は優しく名前を呼んだ。
「もういいんだよ」
「父様…?」
「君も蒼生も…もう苦しまなくていいんだ」
「………………」
───思い出さなければ。
見えていたものを
見えない振りをしてしまったことを
真実を受け入れたくなくて
ずっと否定し続けてしまったことを
蒼生が───……
私と同じ…罪人だということを。
「あぁ……」
何とか絞り出した声は消えそうだった。
「蒼生を抱きしめた時…見えたんだ。彼の胸元には…私と同じ、紋章があった。でも私には見えなかった。真実を拒絶したから…。蒼生が『悪』との取引に応じたなんて…信じたくなかった」
肩の力が抜け、静かに呟く。
「本当は見えていた。でも見えない振りをした。あぁ…そうか…蒼生も…」
私が、罪人にさせたのか───。
「聡明…蒼生が罪を犯したのは…私のためか?」
「貴女に真実をお伝えします」
いつもの口調に戻った聡明は寂しげに笑み、あの日の出来事を話した。
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