第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「リキュール?……霙?」
その表情は悲しく歪んでいる。
「雅」
「琉生」
「詩調」
「蒼生…」
そして梨央は両手の掌を見つめる。
「何で生きてる…!?」
慌てて立ち上がった。
「私は消えたはずだ!奴への復讐を果たし、望みを叶えた代償として世界から消えたのに…どうして私は生身の身体で存在している!?」
“望み=復讐を果たした時、私の存在は世界から消える”
それが『悪』との取引だった
それなのに…
「一体これはどういうことだ!?」
混乱して思わず叫んでしまう。
「っそうだ…まずは確かめないと!!」
すぐに零番隊舎を飛び出し、ある場所へと向かった。
◇◆◇
着いたのは蒼月の里にある自分の屋敷だった。
バンッ
乱暴に扉を開ける。
「聖兎!!丙!!壬!!」
エントランスホールから三人の名前を呼ぶ。
「蒼生!!」
それでも誰も姿を現さない。
「どこにいるの…?」
不安が押し寄せる中、梨央はふと“あること”に気付く。
「あれ…?」
私が再び死神を目指して
護廷に入隊してから今日まで
私は一度も兄の姿を見ていない
「…タイミングが合わないだけ?」
考えが纏まらず、頭を振る。
「このままこれ以上考えてても仕方ない。その“答え”は彼を見つけ出して聞くしかないな」
深呼吸をし、心を落ち着かせる。
「おかえりなさい」
「!!」
屋敷を出ようとした時、不意に後ろから声をかけられ、振り返る。視線の先には赤い髪をした男性が温和な笑みを浮かべて立っていた。
「…聡明」
「私の事が分かるということは、全て思い出されたんですね」
「キミ、私に何をした」
「…感動の再会は無しですか」
冗談めいた顔でくすりと笑う。
「何もしていませんよ」
「なら質問を変える。“どうして私はこの世に存在している”?」
「………………」
「キミは知ってる筈だ。奴との取引内容を。世界から消えた筈の私が今、此処に居る。キミならその理由を知ってるんじゃないのか?」
顔色を変えずに聡明はただ一言───“はい”と応えた。
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