第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「汚れてるし洗ってあげよう」
抱えるとパタパタと人形を洗いに向かった。
そして…
「うん。これで大丈夫」
汚れを落として乾かす。
「綺麗になって良かったね
───“リキュール”。」
ニコリと微笑んで気付く。
「リ、キュー…ル?」
兎の人形に目を向ける。
「何で…この人形の名前を…?」
カランッ
自分の発言に怖くなって後退りするとその拍子に何かが床に落ちる音がして視線を向けた。
「!」
透き通った青と銀が混じった石だった。
「……………」
恐る恐る、その石を拾い上げる。
「綺麗な色」
カチッ
「!」
時計の秒針が進んだ音が聞こえた。
ズキッ
「痛…ッ」
今度は激しい頭痛が襲う。
「何なの…何が…」
あまりの痛さに床に座り込み、頭を押さえる。
「(痛い…頭が割れそう!
怖い…誰か…助けて…!)」
"怖くないよ"
「!」
"大丈夫"
"思い出して"
「(思い出す…何を?)」
"キミが歩んだ物語の全てを"
"思い出して─────!!"
「っ………!」
梨央は石をギュッと握った。
その瞬間、脳裏にある光景が浮かぶ。
あの日
梨央が世界から消えた後
一人残された聡明は言葉を紡いだ。
『────その石が』
『いつか君の止まった時間を動かす時』
『失った記憶を越えて』
『どうか娘が』
『大切な友達を』
『大好きな兄を』
『一番愛する人を』
『ちゃんと思い出せますように…』
願いをこめて────……
「っ…………」
ポロポロと涙が床に落ちる。
「私…?」
放心したように床を見つめる梨央。
止まっていた時間が再び動き出した事で、彼女の失った記憶は全てを取り戻す。
最初は訳が分からず混乱していたが、次第に記憶の整理がつき、涙を流しながら兎の人形を見た。
.