第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
十番隊に配属されてから数ヶ月が経ったある日の出来事。
「あれ?」
外に出ていた梨央はあるものを視界に捉える。
それは他の隊舎とは離れて建てられた一つの隊舎だ。
「何であの隊舎だけ離れてるんだろ?」
ちょっとした好奇心が生まれた。
「別に気になるわけじゃないけど…」
どうしても足がそこから動かない。
「十三隊以外にも別の隊が存在するの?」
不思議に思ってその隊舎に続く道を歩き始める。
「!」
扉には大きく"零"の文字が書かれていた。
「……………」
それ以外は何も変化はない。
ただ、隊舎があるのに人の気配が一切しないのだ。
誰も住んでいないのだろうか。
そう思った梨央は零番隊舎に足を踏み入れた。
「すみません。零番隊の皆さん…」
恐る恐る声をかけてみる。
だが返事は返ってこない。
そして隊舎が広過ぎるせいか、静まり返っていて少し不気味だ。
「る、留守?それとも…本当に誰も…」
ギシ…ッと床を踏む音にビクリと肩を揺らす。
「た、隊長さん…いないんですか?」
一つの扉を押し開ける。
「此処は執務室…」
大きく解放された窓からは青空が見える。
そして心地よい風が入り込む。
「……………」
梨央はぐるりと周囲を見渡す。
「(違和感を感じる…)」
ギュッと拳を握りしめた。
「隊士もいないなんて絶対におかしい…」
執務室に繋がっている応接室の扉を開ける。
ガチャ…
「!」
たくさんの本が本棚に並べられ、ソファーとテーブルがある。
そして…
「何でこんな所に…」
窓の縁に置かれている────兎の人形。
少し埃を被っていて汚れていた。
「翡翠の耳飾りを付けてる兎の人形なんて初めて見た…」
兎の人形の耳には翡翠の石を包み込む様に金具が付いている。
「とても大事にされたんだね」
そんな気がした。
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