第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「ご馳走様でした」
「美味かったか?」
「満足です!」
「そりゃ良かった」
「松本副隊長に感謝しなければいけませんね」
梨央は満足げな顔で笑う。
「仁科」
「はい?」
「お前に渡したい物がある」
「何でしょう?」
日番谷は小さな箱を渡す。
「返すよ、お前に」
「("返す"?)」
その言葉に引っかかりながらも箱を開けた。
パカッ
中身を取り出すと…
「!!」
キメ細かな緑色の粒が散らばった青い薔薇の髪飾りが入っていた。
梨央は目を見開く。
「綺麗…」
うっとりと眺める。
「貰っていいんですか?」
「貰うも何もそれはお前のだろ」
「そう…でしたっけ?」
「今度は形見なんて残すなよ」
「え?」
日番谷の言葉に思わず聞き返す。
だが彼は笑みを浮かべたままだ。
「(みんなが揃って口にする"彼女"の名前…。総隊長が言っていた"彼女"は罪を犯し、その代償を払う為に三年前、世界から消えた。そうか…"彼女"と私を重ねて見てるのか。なら…"気付かないフリ"をしよう。そうすれば…みんな悲しまない。)」
そう自己完結した梨央は日番谷から返された髪飾りを頭に挿した。
「似合いますか?」
「すごく似合ってる」
トクン…
「!」
心臓が軽く跳ねた。
「(なんだろう…今、とても幸せな気持ちだ。)」
日番谷を見る。
「(この気持ちは…)」
胸に手を当てる。
「(ああ、なるほど…"愛しい"のか。)」
彼の言葉に一々喜ぶ自分がいる。
彼が笑えば嬉しいし
笑ってくれるとすごく幸せだ
「(この気持ちの名前を…私は知っている)」
まだトクントクンと高鳴っている心臓。
「(でも…気付かないフリをする。
この人を不幸にしたくないから)」
何故そう思ったかは解らない。
でも自分に関わると不幸にしてしまう、そんな気がした。
「隊長、また一緒に来てくれますか?」
「もちろん。今度は俺から誘う」
「はい!」
二人は微笑み合った。
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