第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
「(デザートのページしか見てねえな…)」
「モンブランか苺パフェか…」
「(そういや前に来た時も同じだった…)」
「うーん…」
「(ほんと…何もかも重なる)」
でも彼女には記憶がない
それが日番谷の心を苦しめる。
「隊長、決めました」
「デザートだけはダメだぞ」
「わ、わかってますよ。ちゃんと栄養バランスのある物も食べろと言われましたから!」
何気なく発した彼女の言葉に日番谷は驚いて目を丸くさせた。
「言われたって…誰にだ?」
「…あれ?そういえば誰に…?」
「……………」
「すみません…覚えてません。でも…糖分の摂り過ぎは体に毒だからと言われた気がします」
『糖分の摂り過ぎは体に毒だからな』
「……………」
「大したことじゃないので気にしないでください」
ニコッと笑うとメニュー表を閉じる。
「パスタとショートケーキにします」
数分後、運ばれてきたパスタをフォークを使って器用にクルクルと巻くと口に運ぶ。そして待ちに待ったデザートが運ばれてくると顔を綻ばせた。
「これが人気のショートケーキ…」
ふわふわしたスポンジ
なめらかなホイップ
完熟した真っ赤な苺
「食べてもいいですか!」
「どうぞ」
「いただきます!」
小さなフォークをスポンジに刺して下まで押し込むように入れ、口に運ぶ。
「美味しい!」
片手を頬に当てて満面の笑みを浮かべる。
その顔を見て日番谷も嬉しそうに微笑む。
「隊長?どうかしました?」
「いや…変わんねえなって」
「?」
「子供みたいに目キラキラと輝かせてるところだよ」
「!!」
日番谷に指摘され、キョトンとする。
「ショートケーキが絶品過ぎて…」
「だろうな」
「でも…こんなに美味しく感じるのはきっと日番谷隊長と一緒だからですね」
梨央の発言に日番谷がピタッと固まった。
テーブルに両肘を付いて掌に額を乗せる体勢で顔を俯かせた。
「隊長?どうしました?」
「…何でもねぇ」
伏せた日番谷の顔は少し赤く染まっている。
天然無自覚は怖い、そう思う日番谷だった。
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