第54章 Beloved-素敵な愛の育て方-
乱菊の計らいで日番谷と昼食を食べる約束をしている梨央は自分の仕事を終えるとまだ仕事をしている日番谷を待っていた。
「あの雲、猫に似てる…」
青空に浮かぶ白い雲が猫の形をしている。
「綿飴みたいだって"彼女"が言ってたっけ」
クスクスと笑いを溢せば、ふと気付く。
「…"彼女"って、誰…?」
自分が発した言葉に驚いた。
「………………」
唖然と一点を見つめていると…
「仁科」
「っ、」
突然名前を呼ばれて現実に引き戻される。
ハッとして声がした方を向けば仕事を終えた日番谷が不思議そうな顔をして梨央を見ていた。
「どうかしたか?」
「…いえ、何でもありません」
ニコリと笑って誤魔化す。
「日番谷隊長、今日はよろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくてもいい」
「いえ、まさか隊長殿と昼食をご一緒させて頂けるとは思わなかったので正直驚いてます」
「そして緊張してるか?」
「はい」
ぎこちない顔で笑う。
「行くか」
「はい」
先に歩き出した日番谷の隣に並んで肩を並べて一緒に歩く。
「瀞霊廷は随分と落ち着いた雰囲気なんですね」
「この辺は来たりしないのか?」
「寮生活だったのでこんな遠くまで来たことはないんです。大戦後は崩壊したお店もたくさんあって復旧までには相当な年月と時間が必要だと聞きました。三年経った今では大戦の傷跡は残るものの、元の生活まで戻っているんですね」
「百年前は今より少しだけ賑やかだったらしいぞ」
「そうなんですね!」
日番谷の言葉にも梨央は反応しない。
百年前、それは梨央がひよ里やリサや真白と共に甘味処に来る際の静霊廷の雰囲気を指していた。
日番谷が少しだけ悲しそうに笑う。
「隊長、着きましたよ」
「ああ」
二人は甘味処に到着した。
その場所は以前、梨央が記憶を失う前、日番谷と二人だけで来た甘味処であった。
中に入ると席に案内される。
「どれにしようかな」
メニュー表を開いてどれを食べるか決める。その様子を日番谷はジッと凝視めていた。
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