第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
「さっきからドキドキしてる…」
胸に手を当てると心拍数が早いことがわかる。
「でも…」
彼を見た途端
胸の奥底から溢れ出す
この想いは何なんだろう…?
悲しみと苦しみと
喜びと愛しさが
一つになって
水のように溢れ出す
けれど
全てが溢れ出る寸前で
上から蓋を被せられたかのように
胸の奥底に押し戻される
まるで…"その想いに気付くな"とでも
言っているかのように邪魔をする
だから私は
無理に蓋をこじ開けて
想いが詰まった水を溢れさせる
なんてことはしないで
"その時が来るまで"
そっとしておこうと思う
「!」
だが、そんな感情はある場所に着いた時点で一気に消し飛んだ。
「十二番隊…」
"彼女"のかつての天敵が住まう、お化け屋敷と呼んだ十二番隊舎だった。
「なんだろ…急に苛々してきた」
顔をしかめて十二番隊舎を睨みつける。
「入りたくないな」
本能が叫んでいる。
"タダチニ立チ去レ"
警告音が鳴っていた────。
「でも十二番隊も挨拶対象だしな…」
仕方ない、と腹を括り十二番隊舎に足を踏み入れた。
「……………」
梨央は絶句する。
「(お、お化け屋敷…?)」
雰囲気が似ていた。
「お化け屋敷みたいか?」
「え?」
「そう思っただろ」
「す、すみません…」
「謝るな。昔から言われてたからな」
「副隊長殿、ですか?」
「ああ」
「この度…」
「待て。そういうのは隊長だけで十分だ。
つっても今隊長は…」
「阿近副隊長!!"眠八號"がまた爆走してますッ!!」
「眠八號…?」
隊士の叫び声を聞いた阿近は呆れるようにため息を吐いた。
「またか…」
「え、え、うわっ!」
前方から物凄いスピードでハイハイしながら赤ん坊が爆走していた。その赤ん坊は梨央の足と足の間をすり抜け、爆走して行った。
「な、何ですかあの赤子は!?」
「眠八號だ」
「いえそういうことを聞いてるんじゃなくて…赤ちゃんってあんなに早く爆走します!?」
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