第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
十番隊舎を目指していると向こう側から二つの影が歩いてくるのが見えた。
「あの二人は…」
すると向こう側にいた二人も梨央に気付いた瞬間、驚いたように目を見開いて唖然としていた。
「ほ、本当に幽霊…」
「莫迦者!ちゃんと足があるではないか!」
顔を青ざめさせる恋次にルキアは叱る。
梨央はルキアを見てすぐに誰だかわかった。
「朽木様!」
「え?」
「朽木様…?」
思わず声を出して様付けで呼ぶとルキアは不思議そうに梨央を見ている。
一方、恋次の方も"彼女"がルキアを様付けで呼んだことに驚いていた。
「ああやっぱり。兄上様に似ていらっしゃる」
目元を緩めて笑う。
「この度はご婚姻おめでとうございます」
「…梨央」
「本当に覚えてねえのか?」
「皆様、口を揃えて同じことを言います。ですが私は皆様のことをお見かけしたのは今日が初めてです。人違いではないでしょうか?」
「人違い…」
「一護達のことも忘れちまったのかよ」
「やめろ恋次」
「俺たち、友達だろ。
なのに…忘れてんじゃねぇよ」
辛そうに顔を歪める恋次を見て梨央は目を伏せる。
「…記憶が」
「!」
「霊術院に入る以前の記憶が…無いんです」
「記憶がない?」
「どういうことだ?」
「わかりません。どうやって生まれたのか、どうやって霊術院に入ったのか…何も覚えてないんです。気付いたら"霊術院に通ってました、当たり前のように"」
「記憶喪失なのか…?」
「さあ、それもわかりません」
「……………」
「でも…なんだか懐かしい気がします」
「懐かしい?」
「はい。ここに来るまで隊長と副隊長の皆様にお会いしたのですが…なんだか初めて会った気がしなくて。まるで昔にどこかで会ったかのような感覚がします」
「「!!」」
「あ、お喋りに夢中になりました。これから十番隊舎に伺うのでこれで失礼します」
ぺこりと頭を下げると二人の横を通り過ぎた。
「恋次」
「ああ…ありゃ間違いなく梨央だぜ」
二人は悲しい顔で梨央の後ろ姿を見送った。
.