第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
「(なんか…怖い顔でこっち見てる…)」
眉間をグッと寄せて顔をしかめている砕蜂を見て一歩後ろに退がりたい気持ちだった。
「あ、あの…本日より護廷でお世話になります、死神見習いの仁科梨央と申します。よろ…よろしくお願いします!」
有名人並みの隊長を前にして緊張している梨央は言葉をつっかえて自己紹介をする。
「二番隊隊長の砕蜂だ。貴女…ゴホン。貴様は真央霊術院を首席で卒業して素晴らしい実績を残したらしいな」
「はい」
「なぜ死神になろうと思った」
「……………」
「貴様から見たら私達は有名人の様な存在なのだろう。まさか…"くだらぬ憧れ"を夢見て死神を目指そうなんぞと思った訳じゃないだろうな」
ギロリと鋭い眼光が梨央を射抜く。
「どうなのだ」
砕蜂の言葉を胸に留めて彼女を見て言った。
「確かに貴女方は先の霊王護神大戦において、大活躍された死神の皆様です。悪の根源とされる者からこの尸魂界を守ってくれた。それはとても感謝しています。有難う御座いました」
「…………………」
感謝の言葉を述べて頭を下げる。
「ですが」
「!」
頭を上げた梨央は真っ直ぐな眼差しで砕蜂を見た。
「そんな生半可な気持ちで死神を目指そうと決めたのではありません。以前、森の中で友人が虚に襲われて重傷を負いました。浅打を手にしているのにも関わらず、私は死ぬのが怖くて体が動かず、泣きそうでした」
掌をジッと見下ろす。
「私にもっと力があれば。虚に立ち向かえる程の強さがあれば。友人は傷付かずに済んだ。私が怖気付いたせいで彼女は死ぬかもしれなかったんです」
そして掌をギュッと握りしめた。
「だから強くなりたい」
「!」
「救える命を見捨てない勇気が欲しい。誰かを護れる力が欲しい。強くなればきっと虚にも怯えず立ち向かうことができる」
「要するに貴様は…護るための強さが欲しくて死神を目指した。そういう事だな?」
「はい」
強く頷けば冷徹な雰囲気を纏わせていた砕蜂の表情が和らいで、その口元に笑みを浮かべた。
「貴女様は全てを忘れても変わらずにいてくれた」
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