第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
「仁科」
「!」
開けられた窓の縁に足を掛けた夜一が部屋に飛び込んできた。
「四楓院先生…」
「実習の件は聞いた。大変じゃったな」
心配する夜一に梨央は悔しげにかぶりを振って否定した。
「大変なのは未亜ちゃんです。私は…彼女を護れなかった…。一番近くにいたのに…何もできなかったんです…っ」
膝の上で握り拳を作る。
「十番隊があの周辺を調査してて助かったの。お主の叫び声を聞いた日番谷隊長が即座に駆け付けたそうじゃな」
「はい…流石は隊長さんですね。あんなに大きな虚を一瞬で斬ってしまうなんて。模擬試験とは比べ物になりません」
疲れ切った顔で笑う。だがすぐに悲しそうな顔を浮かべて言った。
「…死ぬのが怖いと思ったんです」
「!」
「助けを求めることしかできなかった。自分が無力だと知りました。先生、教えて下さい。強くなるにはどうしたらいいですか?」
「強くなるには…か」
「大切な人を護れる強さが欲しいんです」
「簡単じゃ」
夜一はニィッと笑う。
「護廷十三隊に入れ」
「護廷十三隊に…?」
「そこならお主はもっと強くなる」
「私が…なれるでしょうか」
「自信がないのか?」
「私には自分が何故霊術院に通っているのか分からないんです。記憶の大半が欠落しているせいか、いつから彼処にいるのかさえも分かりません。そんな私が死神を志して良いのでしょうか…」
「では儂から質問してやろう」
「質問…ですか?」
キョトンとする梨央を見て、夜一はニヤリと笑う。
「お主は大事なものを守る為に死神を志したいと思わんか?」
「!」
大事なものを守る為に?
「のぅ仁科、お主はどうしたいんじゃ?」
その答えに梨央の表情がぐっと引き締まり、何かを決意した眼差しで夜一を見返す。
「大事なものを守る為に私は死神になりたいです。もう誰も私の目の前で傷つけさせません。私が強くなって守ってみせます!」
「それが『正解』じゃな」
最初から分かっていた口振りで夜一は笑い、梨央の頭の上に手を乗せる。
「待っておるぞ」
「はい!」
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