第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
「隊長さん」
「…なんだ」
「本当に助かりました。
ありがとうございます」
「助ける声がしたから助けたまでだ。
だから…泣くな」
日番谷は少女の涙を拭おうと手を伸ばす。
「っ………」
だが、その手は途中で止まる。
「(俺がこいつに触れる資格はねぇな…。
こいつは…梨央じゃない。)」
ふっと悲しそうに笑って手を引っ込める。
「お前、名前は?」
「名前…ですか?」
少女は真っ直ぐに日番谷を見る。
深い青をした綺麗な瞳で。
「仁科梨央…ですけど…」
「(名前まで同じ…か…)」
「あの…あなたのお名前も聞いていいですか?」
「日番谷冬獅郎。十番隊隊長だ」
「日番谷…隊長」
「!」
自分の名前を呼ぶその声に、日番谷は泣きそうになり、グッと眉を寄せ、辛そうに顔を浮かべる。
そして少女、梨央は優しい笑顔で笑う。
「ありがとうございます。日番谷隊長」
「(本当に悪い夢でも見てるようだ…。こいつは…本当は梨央なんじゃないかって…そんな筈ないのに…生きてたんじゃないかと…期待してしまう───)」
「隊長…行きましょう」
「…そうだな」
日番谷と乱菊は梨央と未亜を引き連れて天弦の下へと向かう。現状報告を聞いた天弦は驚いた様子で擬似体験を中止にさせた。二人は京楽に報告する為、瀞霊廷に帰って行った。
霊術院にある寮の部屋に戻るとベッドに腰掛け、青ざめた顔で体を震わせる。
「友達を傷つけちゃった…」
自分のせいでなくても未亜を傷つけたことに変わりはない。自分がしっかり守っていれば。もう少し考えて行動していれば。そんな後悔の念が押し寄せる。
「…何もできなかった」
目の前に虚が現れて
未亜ちゃんが斬られて
護らなきゃって思ったのに
恐怖で体が動かなかった
「情けない…役立たず」
未亜は乱菊の治療のおかげで命に別状はなかったが、しばらくの療養が必要だと天弦からの連絡を受けた。
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