第53章 Lovely-二度目の恋は盲目で-
「あの…隊長さん」
ピクリと日番谷が反応する。
「危ないところを助けて頂きありがとうございます。おかげで死なずに済みました。本当に感謝します」
軽く頭を下げる。
日番谷は刀を持つ手にギュッと力を込めると、ゆっくりと後ろを振り向き、少女を見た。
「っ………」
思わず、息を呑む。
名前を呼びそうになった。
“本当にお前なのか”─────と…。
だが寸前のところで思い留まる。
「(誰か嘘だって言えよ…)」
切なそうに顔を歪めた日番谷の瞳が悲しそうに揺れた。
「(何であいつがここにいる────。)」
「…何で悲しそうなんですか?」
「!」
心配そうに日番谷を見る。
「…何でもねえ」
「でも…」
「気にするな。それより…怪我はないか?」
「はい」
少女は柔らかな表情で微笑む。
「(っ…笑った顔も同じだ…)」
今の日番谷にとって少女の存在は何よりも辛かった。
信じ難い現実に、泣きそうになる。
「(これは…どういうことなんだ…?)」
冷静を装いながらも、頭の中は混乱していた。
「(何故…消えた筈のあいつが俺の目の前にいる…)」
三年前に世界から消えた愛する人。
その三年後、同じ姿で再び彼の前に現れた少女。
同じ顔
同じ声
同じ仕草
何もかもが似ていた────。
「どうしてこの森に?」
未亜の治療を終えた乱菊は少女に尋ねる。
「今日は擬似体験をしていたんですが…擬似だと思っていた虚がまさか本物だと気付かず彼女が飛び出してしまったんです。もう少し警戒するべきでした…」
少女は友人を危険な目に合わせてしまった罪悪感から悔しそうに顔を歪め、手を握り締める。
「とりあえず如月先生に報告をしないと…」
「あたし達も一緒に行くわ。
現状報告をしないといけないから」
「わかりました…」
乱菊は未亜を抱きかかえる。
立ち上がると少女の死覇装が未亜の返り血で汚れていた。
.