第52章 Reunion-×××を望んだ少女は-
かつて自分にも永遠を誓い合った恋人がいた。
最強戦闘部隊の筆頭を務め、零の名を掲げ、自信に満ち溢れた彼女は、仲間と友を大切にし、大事なものを守る為なら自らの命を顧みずに戦う、誇り高き戦士だった。
そんな彼女との出逢いは最悪なものだった。あれから随分と月日を重ね、交流を深める内に恋が芽生え、やがて『それ』が愛に変わっていった。
隊士達の憧れの存在である彼女は、戦いに於いて人並外れた能力を持っていた。そんな彼女の全てを含めて『化け物』と蔑称する者も少なくはなかった。
誰もが怖がる【死】を彼女は平然と跳ね除け、その身に血を浴びながらも持ち前の強さで戦い抜いた。
ずっと不思議だった。
一歩間違えれば死ぬかも知れない状況の中、彼女は何故、死に臆する事なく、敵に立ち向かっていけるのか
それは彼女が『特異的無恐怖症』という特別な症状の持ち主で、“自分の死に対して恐怖を感じないからこそ”、死の意識を軽く考え、死の重さを誰よりも理解していたからだった。
だからかも知れない。
彼女は自分の幸せを望めない人だった。
別れを告げる前、彼女の過去を聞かされた。幼い頃、憎き男に幸せを奪われ、今度はその男に自分が殺されてしまった。
微睡の中、最愛の兄を独りにしてしまったことへの後悔から『悪』との取引に応じてしまったと彼女は切なげな顔で語っていた。
それでも罪を犯したことに罪悪感も後悔もなかったという。例え自分が世界から消えることになっても、全てを壊したあの男への復讐と大切な兄を守る為なら、罪を犯すことくらい容易いことだったのだろう。
だからなのか、彼女は最初から知っていた。
みんなが当たり前に手にする幸せを望めないこと。罪を犯した者に永遠なんてないこと。未来に自分がいないことを…本当は知っていた。
それでも彼女はあの時、幸せだと笑った。自分を愛してくれてありがとう、と涙を潤ませながら嬉しそうに笑っていた。
行かないでくれと引き留めたが、彼女の覚悟は罪を犯した日から決まっていた。だからそんな彼女の覚悟を踏み躙る真似だけはしたくなくて、泣きそうになるのを堪え、別れを告げた。
そんな優しい彼女が消えて、三年。
永遠の愛を誓った女(ひと)は
もうどこにもいない────。
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