第52章 Reunion-×××を望んだ少女は-
「それでしたらどうぞお上りになって下さい」
「い、いえ!それは流石に…」
「直接お渡しになった方があの子は喜びます」
「じゃあ…失礼します」
立ち姿の美しい老齢の仲居に導かれ、細部まで見事に整えられた庭園に面した廊下を進む。
「綺麗な庭園ですね」
「有難う御座います」
「(床が飴色だ…)」
磨き上げられたその床板は、飴色に輝いていた。
「鯉まで飼っていらっしゃるんですね」
「色鮮やかで御座いましょう?」
「大きな錦鯉ですね」
「お客様も鯉を飼っていらっしゃるんですか?」
「いえ、私の家ではなくて茶会広場にいる鯉が元気に泳い…で…」
少女は自分が放つ言葉に違和感を感じて口を噤む。
「お客様?」
「(茶会広場って何…?
何処のことを言ってるの…?)」
「お客様?」
仲居の心配そうな声で我に返る。
「だ、大丈夫です。
少し圧倒されちゃって…」
ぎこちない笑みを浮かべて誤魔化した。
そして…
「うわーん!簪が見つからないよー!」
「何です大きな声を出して」
「だって仲居さん!あの簪は…」
「貴女にお客様ですよ」
「お客様…?」
「未亜ちゃん」
「ええー!どうして此処にいるの!?
もしかして仲居の手伝いに…」
「コレを届けに来たの」
ハンカチに包んでいた簪を差し出す。
「忘れて帰ったみたいだから」
簪を見た後、少女を見て未亜は、だばーっ!と涙を流した。
「これ探してたのぉー!!
無くしたと思ってたあー!」
「はい、返すね」
「ありがとう!助かったー!
お姉様から貰った大事な簪なの!」
ギュッと掌で握りしめて嬉しそうに笑う。
「無くしてなくて良かったね」
「本当にありがとう!」
「じゃあ私はこれで…」
「玄関先まで送るわ!」
「大丈夫だよ。お手伝い頑張ってね」
ぶんぶんと手を振って見送る未亜ちゃんに笑って手を振り返す。
「さて…早く帰って休もう」
少女は、飴色に輝く床を踏んでその場を後にした。
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