第52章 Reunion-×××を望んだ少女は-
「…仲居の手伝い?」
「お姉様のお友達が盲腸で寝込んでるらしいの。それで人手不足だから手伝ってくれないかって頼まれちゃって…」
「盲腸…それは大変だね」
「ごめんなさいね。
せっかく帰る約束してたのに…」
申し訳なさそうに謝る未亜に少女は首を振る。
「気にしないで」
「そう?」
「お仕事頑張って」
「うん!ありがとう!」
手を振って教室を出て行った未亜を見送る。
「あれ…?」
机の上に簪が置かれているのを見つけた。
「これ…未亜ちゃんのだ。
お気に入りだって言ってたな」
見るからに高級そうな簪だ。
彼女はコレをいつも頭に挿している。
「(無かったら困るよね…)」
少女は簪を拾い上げる。
「確か未亜ちゃんのお姉さんの勤め先は…」
◇◆◇
六番区・料亭『花くれなゐ』。
六番区の東側には、貴族の邸宅が建ち並ぶ一画がある。
四大貴族が一、朽木家の当主が代々隊長を担う六番隊────その隊舎を有する六番区には、朽木家御用達の様々な老舗が軒を連ねている。
そのため、上質な品を求める貴族がこぞって邸宅を構えており、一般隊士から“貴族街”と呼ばれる富裕区画が形成されていた。
「…ここが…『花くれなゐ』?」
格子戸の手前には美しい筆文字で『花くれなゐ』と書かれた行灯が置かれ、周囲に柔らかな光を投げている。
「(というか…勝手に入っても大丈夫かな?)」
見るからに住む世界が違う、少女は突直に思った。
格子戸に手をかける。
「(こんな高級そうなお店は初めてだし…早いとこ渡して帰ろう。)」
引き戸を開けて中に一歩踏み入る。
「ようこそお出でくださいました」
撫子色の着物を纏った仲居が控えていた。
少女に和やかな笑みを向け、頭を垂れる。
「もしかして朽木様の御関係者様でしょうか?」
「え?」
「他の皆様は既にお集まり致しておりますよ」
「い、いえ…自分は友人の忘れ物を届けに…」
「友人…と言いますと?」
「桐島未亜ちゃんです」
「ああ…桐島さんね。さっき来て何やら簪が無いって騒いでいましたので…」
「その簪を届けに来ました」
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