第51章 Historia-そして物語は完結する。-
「隊長の言葉は危険です…」
「別に危険でも何でもないだろ」
「わ、私を羞恥死させるつもりですか!」
「なんだ羞恥死って…」
「ううう〜」
「もしかして嫌か?」
「い、嫌じゃありません!」
「じゃあ恥ずかしいだけか」
「あ、当たり前です」
「安心しろ。俺も少し恥ずかしい」
「ふふっ」
クスクスと笑えば日番谷はそれを見て嬉しそうに笑う。
「梨央」
「はい」
「お前を愛してる」
「私も愛してます」
笑い合うと、そっと顔を近付け、唇を重ねた。
「んっ…」
小さく声が漏れる。
「(あぁ…幸せだなぁ)」
唇を放すと恥ずかしそうに笑い合った。
「そろそろか…」
自分の手を見ると先程よりも透けている。
「隊長、お別れみたいです」
「…そうか」
「ごめんなさい。自分勝手で」
「優しいなお前は」
「隊長だって優しいですよ」
「お前のが感染ったのかもな」
そんな小話を挟みながら時間を伸ばそうとする。
「さて…と…じゃあ隊長、行きますね」
「俺も反対方向から帰る」
「はい。では…さよなら」
「ああ…さよなら」
お互いに背中を向けて歩き出す。
別々の道を歩んで行く。
聞こえるのは二つの足音だけ。
それ以外は静まり返っている。
どちらも振り向こうとしない。
いや、振り向かないと決めたのだ。
振り向いて愛する者の姿を見れば
きっと駆け寄りたくなるから─────。
「……………………」
日番谷は先程までの嬉しい表情は消え、今はとても悲しそうに視線を地面に向けている。
「……………………」
そんな梨央も同じ様に悲しい顔を浮かべていた。
けどゆっくりと目を閉じて、再び開ける。
そして…後ろを振り返った。
「"彼女を愛してくれてありがとう"」
遠くにいて聞こえないはずの声が日番谷の耳に届く。
「っ………!」
驚いて振り返るが既に梨央の姿は消えていた。今の声が梨央が話してくれた『私』の声だと知り、日番谷は笑う。
そして目を閉じ、瞬歩で立ち去った。
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