第51章 Historia-そして物語は完結する。-
「何故…そう言い切れる…」
「だって隊長がいるもの。そして隊長が信じる仲間と友がいる」
「…そうか…あの者達なら…陛下の世界を…終わらせることが…できるかもしれぬな…」
「きっと大丈夫。だってあたしが信頼する人だもの。隊長は約束を守る人よ。あんな男になんか絶対に敗けないわ」
「…お前達が死んで…あの者は…きっと自分を責めるのだろうな…。“仲間を死なせてしまったのは自分のせいだ”と…」
「そうね…責任感の強い隊長ならあたし達の死を心の底から悲しんでくれる。でも心配ないわ。あの人は強いもの。きっとあたし達の死を乗り越えられる」
詩調は穏やかな顔を浮かべる。
「それに…高峰がいる。あの二人はお互いを大切に思ってるの。それこそ…どちらかが死んでしまえば、片方は壊れてしまう程に」
「……………」
「初めて出会った時からあの二人はいつも一緒だった。周りから見れば仲睦まじい兄妹。心配性の兄とマイペースな妹。ごく普通の…偽りのない兄妹だった」
ふと詩調の声が低くなる。
「でも…あの二人と過ごす内に気付いてしまったの」
「何に…気付いたというんだ…?」
「“あの二人はお互いに何かを隠している”。あたしだけかも知れない、気付いたのは。でも…ずっと一緒にいたから分かるの。隊長も高峰もお互いを大切に思ってるのは確かよ。ただ…壁みたいなのがある気がするの」
天井を仰ぐ詩調の顔はどこか悲しげだ。
「まぁ…その“隠し事”も互いを想うが為なんでしょうけど」
ふと手を見ると透けている。
「そろそろ時間ね…」
「そのようだ…」
ユーゴーの意識は次第に遠退き始め、詩調はこの世界に実体を保てなくなっていた。
「先に行って待ってるわ」
「ああ…私もすぐに追いかける」
微笑んだ二人は最後に口付けを交わす。消えた詩調を見送り、その場に残されたハッシュヴァルト。彼が握っていた剣には“B”の文字。それは自分が手にかけたバズビーの剣だ。
ハッシュヴァルトは悲しげに目を細める。
「すまない…」
最後に一言、そう言い残し、目を閉じた。
そして体が光で包まれるとハッシュヴァルトは消える。チリン…と二つの赤い鈴が寄り添うように音を立てて鳴り響いた。
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