第49章 Divortium-君のための嘘-
ユーハバッハの意味深な発言に詩調は戸惑う。
「行くぞハッシュヴァルト。
私にはお前が必要だ」
ユーゴーの頭に手を乗せる。
「ちょっと待ちなさいよ…」
「!」
「あんた…その男に着いて行く気?」
「……………」
「あたしとの約束はどうするのよ。あんたがいなくなったら誰があたしを守るの。誰があんたを守るのよ!」
詩調は声を張って叫ぶ。
「あの約束は嘘だったの…?」
「(嘘じゃない。嘘な訳がない。ぼくはきみを守る為なら本当に命を掛けても構わない。)」
「…何とか言いなさいよ」
「(初めて…“好きになった人”だから───。)」
悲しげに歪められた顔を見て、ユーゴーの心はズキッと痛んだ。
「きみを守る必要はもうない」
「……え?」
「ぼくは陛下と一緒に行く」
「…な、何で…そんな男に…」
「ぼくが陛下の右腕だから」
「何よ…それ…」
「(ごめん。きみを連れては行けない。ぼくと一緒にいたらきみを今以上に傷付けるから…)」
「あたしを…置いて行くのね」
切なげに笑うが、その瞳は失望していた。
「きみを連れて行く理由がない」
「それはあたしが滅却師じゃないから?」
「きみでは力不足だ」
「随分と冷たくあしらうのね」
「……………」
「…最後に一つ、聞かせて」
震える身体でユーゴーを見る。
「あたしのこと…好き?」
「……………」
ユーゴーは何も答えない。
「(きみを好きだと伝えられたら…どれほど幸せなんだろう。気が強くて怒りっぽくて、意地っ張りで素直じゃないけど、でも本当はとても優しい“ぼくの好きな女の子”……───。)」
“だからきみの為に嘘をつくよ”
「嫌いだよ、きみのことなんか」
また傷付けるくらいなら、泣かせるくらいなら、手放せなくなる前に突き放そう。その選択が『間違い』だと分かっていても───……
「そう……」
スゥ…っと金の瞳が冷たさを帯びる。
「やっぱりあんたもあいつらと同類ね。あんたの言葉を信じたあたしが馬鹿みたい」
ユーゴーは悲しそうに視線を逸らす。
「何があたしを守るよ…」
詩調の目に涙が浮かぶ。
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