第49章 Divortium-君のための嘘-
「ユーグラム・ハッシュヴァルト。お前は他の滅却師の様に周りから霊子を吸収して自らの力とする事ができぬ、周りに“与える”事しか。私は与えた力を育てさせ、それを奪い去る事で力を得たがお前はそれすらもできぬ」
そしてユーハバッハはバズビーに目を向ける。
「赤毛の子供よ。お前はこの者と居る間、日々自分の力が増していくのを感じていた筈だ。それが“自分の力”だと思っていたか?」
驚いた顔でバズビーは瞠目した。
「この者に感謝せよ。無力なお前を天才に仕立て上げてくれた男にな」
ザワッ
「!」
その時、一瞬だけ強い霊圧を感じた。
ユーハバッハは跪いている群衆の中に目を遣る。
「ほぅ…私の霊圧に堪えられる者が他にもいるとは」
そこに立っていたのは苦しげに顔を歪める詩調だった。
息苦しさに脂汗が流れるものの、バズビーや他の人々のように地に跪く事はなく、その鋭い金の瞳でユーハバッハを睨んでいる。
「貴様は滅却師ではないな」
「……………」
「この者も連れて行く」
「!?」
その言葉に驚いたのはユーゴーだった。
「ですが陛下…この者は…」
「構わん」
「畏まりました」
憲兵隊が詩調に近付き、手を伸ばす。
「あたしに触れたら殺すわよ」
殺気をぶつけ、ギロリと睨む。
「貴様には私の補佐として同行してもらう」
「補佐ですって?冗談じゃないわ。誰があんたに忠誠を誓うもんですか。滅却師の始祖だか何だか知らないけど、自分の思い通りになると思ったら大間違いよ」
「この娘!陛下に何たる無礼を…!」
「ま、待ってください…!!」
警戒心を張り続ける詩調にユーゴーの声が響く。
「彼女はごく普通の村娘です。滅却師でも無ければ弓も扱えません。ぼくが教えた剣術を少しかじってる程度です。彼女に補佐としての役目は務まらないと思います!」
「!!」
まさか自分を庇ってくれると思わなかったのか、詩調は目を見開いた。
「確かにお前の言う通りだ。
滅却師でも無い者に興味はない」
ユーハバッハは詩調に背を向ける。
「貴様とは遠い未来で必ずまた会うだろう」
「どういう意味…?」
「いずれ分かる時が来る」
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